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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【はじまりの1週間】
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第十五幕:純白の鍵(1)

ぼちぼち話が動き始めます。




 昼食後、リビングでユウが淹れてくれたお茶を楽しみながら、午後の予定をナユタさんに相談してみた。


「昼からはどうしますかね」

「そうですね……皆さんは自主レッスンか、シミュレーターでの訓練か、もしくはオフということで」


 “ゲート”も破壊したことだし、オフはオフできっちり取らないとね。


…まあ、レッスンとか訓練って事実上オフじゃないとは思うけど。


「あっあの、良かったらその、買い物に……付き合って、もらえませんか……」


 マイは買い物に行きたい様子。


…誘うんならもっと堂々と誘っていいんだけどな。


「あら。買い物なら私もマスターに付き合って欲しいわ」


 お。レイのお誘いとは珍しい。


「そういやマスター。奢ってくれるって言ってましたよね」


 うっ。サキさん、そういうトコだけキッチリ憶えてらっしゃる。


「ハルはねー、お腹いっぱいになったからちょっとそのあたり走ってくるー!」

「ハルちゃん?あんまり遠くに行ったらダメですよ?」

「ほーい!」


 ってハル(きみ)は誘わんのかい。


「ハルの『ちょっと』は10km単位だからねえ。

アンタさあ、走るんなら裏の運動公園の周回コースにしときなさいよ」


 じゅっ、10km!?


「分かったー!リンちゃんも一緒に走る?マスターは?」

「い、いや、アタシはちょっと……」

「お、俺も遠慮しとくわ……」

「えーみんな走らないのー?走ると気持ちいいんだよー?」


 気持ちいいったって限度があるだろ普通。ハルが体力自慢なのは知ってたけど、桁がひとつ違ってたわ。


「じゃあ行ってきまーす!」

「おう、気をつけてなー」


…って、アキはアキでいつの間にか居なくなってるし。


「皆さん、申し訳ありませんが、マスターには事務所で私の仕事を手伝ってもらうので」


 あ。朝一でそんな事言われてたっけ。



 残念がるマイとレイを残してナユタさんと事務所に降りる。すでにナユタさんがひとりで午前中から片付けをしていたのだろう、ダンボール箱がいくつも置いてあった。


「で、片付けですか?」

「はい。片付けをやりつつ報告書の作成とか、企画書の整理とか、シミュレーターの更新チェックとか、スケジュール調整とか……」

「いやめっちゃ普通に働いてますやん」


 それだけ色々やるんだったら、他にも何人か休出させとくべきじゃない?


「桝田さんが居てくれますから♪

あと索敵は“マザー”に丸投げですし♪」

「いやそれ普段とあんま変わらんし。ってかこき使う気満々ですね?」

「ま、まあ、こき使うとまでは言いません、けど。

とりあえず、桝田さんには事務所の片付けと掃除をお願いします。それに倉庫の方も見てもらって、必要なら片付けをお願いできますか?」

「掃除はいいんですけど、俺、勝手に動かしていいか分からないものが多いんですが」

「分からない時は聞いてもらえれば」


 俺の仕事用に支給されているタブレット端末には通信機能もセットされていて、ナユタさんといつでも通信が可能になっている。巡回の際に彼女とやり取りしているのはこの機能を使っているわけだ。


「私、シミュレーターかオペレーションルームに居ますから。分からないことがあれば通信で何でも聞いて下さい」

「了解です」

「あと人手が必要なら“アインス”と“ツヴァイ”を使って下さい。呼べば(・・・)来ますから」

「ああ……はい」


 そのやり取りのあと、ナユタさんは地下へと降りていった。

 さて。じゃあ掃除を始めますか。



 ナユタさんに指示されたのは古いファイルや資料の整理と事務机まわり、パソコンまわり、あとソファまわりや応接室の掃除。掃除と言っても埃や目立つ汚れを取るだけで、個々の事務机の上は触らなくていいとのことだった。

 まず事務所内を手早く掃いて回る。机の下とか隅のとか、やはり埃が溜まっていた。ついでなので、スタッフさんたちの机の上の空いている部分も拭き掃除しておく。特に大掃除でもないからアインスは呼ばなくてもいいな。


 自分の机はといえば、大して物も置いてないので一瞬で片が付く。引き出しの中は……まあ、いっか。


 資料の整理とは言っても、立ち上がって約2年ちょっとの事務所だからそんなに古いものもないし量も多くない。チームごと、日付を揃えて整理するだけだ。未分類のものも、ここ半月ほどの分しかないからすぐ終わる。

 過去にMuse!が出演したイベントや収録の資料なんかが出てきて読みたい衝動に駆られるが、読み始めたら終わらないのでぐっと我慢。それでもチーム制になったのが去年の11月からだとか、一番最初は3人でのスタートだったとか、そういう事はチラ見した。


 ファイルの中のfiguraたちの写真に、知らない女の子たちの写真がいくつか混ざっているのを見つけた。青い髪の長いポニーテールの子と、蘇芳(すおう)色のボブカットの子と、あと銀髪ロングをハーフアップに結い上げた子と。ハルやアキやサキの姿がないから、多分これは結構前のやつだな。

 青髪の子はなんというかツンとして澄ましたクール系、蘇芳色は明るいお調子者の雰囲気、そして銀髪は何だかぼーっとして見える。でも銀髪の子は他の子たちと比べてもかなりの美少女だ。

 写真の背景は……どこだこれ?何ヶ所かで撮ったみたいだけどよく分からん。着ているドレスも、ステージ衣装というよりは戦闘衣装っぽい感じ。データとしてはもらってないなこのドレス。


 まあ考えても仕方ないし、あとでナユタさんにでも聞いてみるか。


 写真の収められているファイルをパタンと閉じ、この件はひとまず胸の奥にしまい込む。そして一通りファイル整理を終えると、備品倉庫の方に行ってみた。

 オルガンやよく使う小物類の置いてある準備室を抜けて倉庫へ入ると、そこは結構な広さで専用のエレベーターまで備えてある大きな空間だった。このエレベーターは2階部分と繋がっているんだろう。

 中には過去のイベントやライブで使われた大道具や看板などが、全部整理されて置かれていた。1周年記念ライブの大看板を見つけて、ちょっと懐かしい気持ちになった。まだ10日ぐらいしか経ってないはずなのに、なんだかひどく昔のことみたいに感じる。


 って、これ絶対ナユタさんやアインスだけで片付けてないでしょ。てかきちんと整頓されてて俺が触る所ないやん。


 一応、倉庫内エレベーターで倉庫二階へも上がってみたが、こちらも整頓されていて、床のゴミ拾いぐらいしかやることはなさそうだった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 ひと通りやることがなくなったので、次の指示をもらいに地下へと降りるため、まずは研究棟へ。俺用のIDカードがまだ出来てないから、俺が地下へ行くには研究棟のエレベーターを使うしかない。ちなみにわざわざナユタさんに会いに行ってるのは、通信を繋げたら『ちょっと降りてきてもらえますか』と言われたためだ。

 シミュレーターではユウ、サキ、リンが訓練を繰り返していた。なんか珍しい組み合わせだな。

サキがバテてるところを見るに、今2時半過ぎだから、かれこれ1時間以上はやってるんだろう。


「あらマスター。お仕事のほうはもういいんですか?」


 ユウがいち早く気付いて声をかけてきた。


「仕事って言ってもほとんど掃除と片付けだけだしな。ユウたちが使ってるのなら、ナユタさんの調整はまだ?」

「最初に少しだけ調整してもらって、その後は私たちが使わせてもらっています。終わったら報告するよう言われています」

「そっか。じゃあ指令室行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

「あ、サキがバテてるから適度に休憩入れたげて」

「はい。分かりました」


 ユウにそう言い置いてから、地下の作戦指令室へと向かった。






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