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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【決戦―渋谷地区浄化ライブ】
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第二幕:浄化ライブ開催へ向けて(2)

「お帰りなさい。皆さん、お疲れさまでした!今回をもちまして、渋谷の巡回は予定通り打ち切りとします」


 午後の巡回はリン、アキ、ハクの3人で回った。ただオルクスはといえば一匹二匹の単発出現が何回も続いて、雑魚敵しばくのに飽きたアキが駄々こね始めて、なだめるのになかなか苦労した。

 そんなこんなで夕方、パレスに戻ると、事務所で所長とナユタさんが出迎えてくれた。


「ようやく終わったわね!これでみんなも安心して買い物が出来るわ!」

「アキさんが、床で寝ています…」

「んなぁ!?」


 ハクの言葉でアキを見ると、彼女はもうすでに事務所の床に大の字になって寝息を立て始めていた。

 いやさっきまで普通に歩いてたはずなんだが。寝付き良すぎか。


「あああもう!アイドルが床で寝るとかマジ有り得ないし!こらーっ!起きなさーい!」

「Zzzz……」

「全く、アキにも困ったものだね。まあ今に始まったことではないが」


「……ま、まあ、とにかく。巡回も一区切りついたので、あとは浄化ライブを残すのみです。レッスン、頑張って下さいね!」

「もちろんよ!私たちに任せなさい!」

「おお、やる気だなリン。しっかり頑張れよ」

「何言ってんの。マスターも付き合いなさいよね!ここまで来たらとことん頼りにさせてもらうんだから!」

「って言われても、仕切るのはナユタさんで俺は見てるだけだもん」

「って他人事か!」

「ま、今後のために見学って所だな」

「何言ってるんですか。開催当日までの根回しや取り仕切りは今回私がやりますけど、当日は桝田さんの仕切りですからね?」

「げぇ!?」

「大丈夫ですよ、マイちゃんのデビューライブで全体ライブのノウハウはもう掴めているはずですからね。私はなんにも心配していませんから!」


 うっく、に、逃げ場がねぇ……!


「ということで!新曲、新曲ですよ!」

「えっ新曲ですか?」


 今度の浄化ライブには新曲を出す、ってこと?


「今回の渋谷の浄化ライブは、MUSEUM始まって以来の大規模浄化ライブになる。その成功を確実のものとするため、Muse!の新曲を書き下ろしで用意することになった。

開催が決まった時点ですでにソラチに制作を依頼していてな、先行してデモテープが届いている」


 ソラチさんはマイのデビュー時に彼女のキーに合わせて微調整をやってくれた作曲家さん。Muse!の楽曲のほとんどは彼の作曲だって聞いてるから、当然新曲も彼の作ってことか。


…いや、開催決まってたったの4日でもうデモテープできてるとか、動き早くない?


「でも、さすがにいきなりすぎませんかね?そんな急に決めちゃって大丈夫なんですか?」

「確かに、少々スケジュールを詰めざるを得なかった面はありますね。『新宿』の探査結果を受けて浄化ライブを早めた側面があるので……」


 あーなるほど。リーパーを排除できてる今のうちにやっちゃおう、ってことか。


「今回の新曲は全体曲になりますので、Muse!全員の呼吸とリズムを合わせなくてはいけません。桝田さんもマネージャーとして、しっかり指導・監督をお願いしますね」

「えっと、当日までもう2週間ないですけど、今から練習してライブに間に合いますかね……?」

「間に合うか、ではない。間に合わせるのだよ。新曲が完璧に仕上がればアフェクトスの大幅な回収増が見込める。必然的に浄化ライブの成功率もさらに高まることになるだろう」


 うへえ。巡回がなくなるぶんレッスンに回せるとはいえ、あの子たちには地獄の猛特訓を強いることになりそうだぞ、これは。


…でもまあ、生き生きとしたレイの顔が目に浮かぶようだけどね。


「それと、ミオちゃんハクちゃんの正式加入発表とデビュー告知と、各種SNSでの宣伝活動もお願いしますね!」

「えっ……あ、そうか!」

「万が一にも失敗が許されないのは繰り返し伝えている通りだ。しっかり頼むぞ」

「…………はい……」


 そういうのを無茶ぶりっていうんだよ!




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「浄化ライブで新曲発表、いいわね!なかなか燃える展開じゃない!」

「わーい!新曲だぁ〜!」

「いや、いきなりすぎませんか?浄化ライブまでそんなに日もないし、大丈夫なんですかね?」


 早速リビングに全員を集めて、浄化ライブの日程と新曲の発表を全員に伝える。過密気味のスケジュールになることもあらかじめ詫びておく。

 浄化ライブで新曲発表と聞いて、リンやハルのテンションがうなぎ登りだ。逆にサキのテンションはだだ下がり。

 本当、分かりやすいな君らは。


「そしてミオ、ハク。改めて言うけど、君たちの正式加入が本日、8月1日付ということで決まったから。併せて、今度の浄化ライブがふたりのステージデビューになる」

「……!はい!」

「がんばり、ます……」


 ミオの表情に決意が漲る。ハクは飄々としてるけど、黄色い瞳が揺れずに真っ直ぐ見つめ返してくるから、覚悟は決まってるみたいだな。


「今まで覚えたMuse!の楽曲だけでなく、新曲のレッスンが加わるから、しっかり覚えて完璧にマスターしてくれ」

「はい!」

「はい」


「新曲、ですか?あううう……緊張します……」

「いや緊張する必要ないだろマイ。全員1から覚えるんだからスタートラインは皆一緒だぜ?」

「そうですよマイさん。私たちもまだ曲も聴いていませんし、振り付けもまだですから、みんなで一緒に練習して、一緒に覚えて仕上げていけばいいんですよ」

「だ、だって……スタートラインが一緒って事は、私だけ覚えるのが遅くて取り残されるって事じゃないですかぁ~!」


 いや何故そうなる!?

 ネガティブすぎだろ!


「そう思うなら、人一倍練習しなくてはね。デモテープはあるそうだから、早速聴いて振り付けを考えましょう!」

「あー、ったく。レイさんのスイッチが入っちまったじゃねぇかよ……やれやれだぜ……」


 アキがぼやいてるのを敢えてスルーしつつ、渡されたデモ曲の入ったUSBをタブレットに挿し、再生して全員に聴かせる。

 へえ、なかなかカッコいいメロディーラインの曲だな。


「素晴らしいわね!浄化ライブに相応しい新曲になりそうだわ!」

「もうソラチさんが先行して制作に入っているそうだから、近いうちに完成曲も届くと思う」

「ソラチさんはいつも仕事が早いですから。デモがもうあるのですから、おそらく曲も完成していて明日にでも届くのではないかと」

「マジか。……あっそれと、今回は練習期間も少ないことから、振り付けや歌唱指導に外部の専門家(プロ)が入ることになってるから。基本的には今までのやり方を踏襲してくれるそうだから、レイは明日、先生方と方針をよく協議して欲しい」

「了解したわ」

「では、先に私たちのやりたい振り付けを考えておきましょうか」


 早速振り付けを思案し始めるリーダー3人。

 それを眺める年少組。

 逃亡を企てる約1名。


「アキ。しれっと逃げるんじゃない」

「ギクッ!」

「見てないとでも思ったか。でもまあ、ひとまず先に夕食にしようぜ」

「ふふ、そうね。夕食が終わったら、全員でレッスン場へ行きましょう」



 結局figuraたちは、夕食のあと遅くまでレッスン場で振り付けの組み立てをやっていたようだ。おおむねやる気になってくれているようだから、その点はひと安心かな。

 ただ問題は、ちゃんとライブまでに仕上がるかどうか。そればかりはやってみないと分からない。俺はダンスに関しては全然だし、あとは今回お願いするプロの先生方にお任せするしかない。


 ま、とりあえず完成した新曲が届いてからだな。

 全てはそれからだ。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は15日です。

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