〖閑話6〗第六幕:縁の下の力持ち?
「それにしても、さすがは人気急上昇中のMuse!ですね~。野次馬がすごいこと!」
街中での撮影だったので、当然ファンにも見つかるというもの。おそらくは最初のほうに気付いたファンの誰かががSNSに放流して、それを目ざとく見つけた人たちが集まってきたのだろう。撮影が終わった時には結構な人数がギャラリーとして集まっていた。
それをチラリと見回して、タカギさんが半ば呆れたような声を出した。呆れたと言っても感嘆混じりで、くさすようなニュアンスは感じられない。
「えへへ……。でも、ファンの皆さんに見られてるって思うと、やっぱり緊張しちゃいます……」
「ふふ。でもマイさん、最近は表情がずいぶん柔らかくなってきて、とても魅力的ですよ?」
「えっ!?ユ、ユウさんにそう言ってもらえるなんて……ありがとうございますっ!」
「ほほう。では今まさに、アイドルとして絶賛成長中ということですね!」
「えっ?そ、そうなんでしょうか……?
で、でも、そうだとしたらとっても嬉しいです!」
いやしかし、マイの満開の笑顔も相変わらずの破壊力だな。タカギさん、もうすっかりメロメロになっちゃってるぞ。
「やだもう可愛いったら……ハッ!ち、違う、そうじゃなくて!
……え~、えっと、では以上で密着取材は終了です!お、お疲れさまでした!」
「はい、ありがとうございます!取材、お疲れさまでした!」
こうして、マイの1日密着取材はトラブルもほとんどなく、無事に終えることができたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「マイ、撮影お疲れ様。…………マイ?」
撮影を終えてパレスに戻る途中、改めてマイを労おうと声をかけると、返事がない。どうしたのかと顔を覗き込むと、俯いた彼女は急病かってぐらいに青ざめていた。
いやお前、我に返りすぎだろ。
「うう、マスター……私、本当に大丈夫でした?なにか失敗したりやっちゃったりとか……してませんよね!?」
って怯えすぎか!
「大丈夫だって心配すんな!タカギさんも最後は褒めてくれてたから!『頑張り屋ないい娘ですね』って」
「で、でも、辛口批評……なんですよね?」
「あー、それについては多分心配ないと思うぞ。最後すっげぇニコニコしてただろ?」
実際、タカギさんは最後には吹っ切れたみたいに穏やかな顔をしていた。お節介を焼いた気がしないでもないけど、今回の取材に関しては大丈夫だという手応えはある。
「ほ、本当ですか……?」
「本当だって。いい加減自分の魅力に自信持てよお前は!」
「だ、だって~!」
ホント、お前の加入でMuse!全体の人気にも影響して、知名度アップにも貢献してるんだからな?確かに新人ではあるけど、もうお前も立派にMuse!の一員としてファンにも仲間たちにも認められてるんだから、もっと客観的に自分を分析できるようになってくれよな!
マイはもうこれで今日の仕事は終わりだけど、ひとりで部屋に帰したらまたウジウジしそうだったので、レッスンに合流させた。
タカギさんたち取材陣は事務所に戻り、俺やナユタさんも含めて記事の発表スケジュールや完成原稿の事前チェックなどを取り決めて、そうして帰って行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
この時の取材の模様は数日で動画に編集されて、【MUSEUM】の承認を経て公開された。いつもタカギさんが書いているような三流ゴシップ誌ではなく、なんとアイドル専門雑誌として業界にもファンにも人気の高い、大手月刊誌のウェブサイトだった。
最初に聞いてた掲載予定はこの月刊誌ではなかったはずなんだけど、もしかして売り込み頑張ってくれたのかな。
さらに後日、より詳細な記事が同じ雑誌の誌面に掲載され、それは【MUSEUM】にも献本として送られてきた。
早速全員で、マイを囲んで記事を読んだ。思った以上に絶賛の嵐で、マイのみならずMuse!全体を、そしてそれを見守るマネージャーをも褒めちぎっていた。
ん?あれ?
「素晴らしいわね!あの記者さん、マスターの魅力にここまで気付いていたなんて!」
「わーい、さっすがマスター!すっごーい!」
「いや待ってくれおかしいだろこれ。なんで俺が記事の主役みたいになってんだよ!」
「あら。マスターのことだから、いつものように記者さんにもお話されたのではないですか?——ほら、記事にも『彼女たちのマネージャーはアイドルの何たるかをよく分かっている。彼がマネージャーとして付いている限り、彼女たちの成功は約束されていると言っていいだろう』って、書いてありますもの」
「まーいいんじゃねぇか?あのクセつよ記者がこんだけ絶賛してんだから、成功だってことだろ」
「い、いやだって、あの人に話したアイドル論はほぼレイたちの受け売りだし!」
「だとしても、これは彼女に貴方の言葉が響いたからこその評価よ。誇っていいと思うわマスター」
「ウジウジ言ってんじゃないわよ。褒められてるんだから素直に喜べばいいじゃない!」
「マイさん個人だけでなく、私たちのレッスン風景もきちんと褒めてくれてますし。いいんじゃないですか?」
「いやまあ、いいけどさ……」
何となく、腑に落ちないんだよなあ……。
「何を卑下することがあるのですか。マスターが正しく評価されることは、私たちにとっても良い影響を与えるはずですが?」
「逆に、デビューを控えた私たちには、ちょっとプレッシャー、です」
「ぐ……」
レイたちだけでなくデビューを控えたミオやハクにまでそう言われて、それ以上何も言い返せなかった。
「先日の取材の記事、読ませてもらったよ。ご苦労だった。よくやってくれたね」
「マイちゃんや皆さんのことだけでなく、桝田さんのこともべた褒めでしたね!良かったです!」
そして所長室で、所長やナユタさんにまでイジられる。
「いや、俺が目立つのはなんか違うというか……」
「前々から言っているが、君はもっと自分を認めるべきだ。自分が自分を信じてやらなくて、誰が信じてやるというんだ」
ぎゃー!自分のセリフが、まさかこんな形で自分に跳ね返ってくるなんてー!
「ふふ。でも本当に、桝田さんが彼女にオファーしたと知ったときにはどうなるかと思いましたけど、ここまでの絶賛記事になったのは桝田さんが頑張ったからだと思いますよ?」
「いや、俺はただ、タカギさんの感情を視てて、あの人自身が昔アイドルを目指してて諦めたんじゃないかな、って。自分が叶えられなかった腹いせに新人アイドルを酷評してたんだろうなって、そう思ったからそれを正直に言ったまでで……」
「それでもだ。その言葉が響いたからこそのこの記事だろう。どうせ君のことだ、嫉妬から足を引っ張るのではなく同じ夢を追う後輩たちを応援してやれ、とでも言ったんじゃないか?」
「……い、言いました、けど……」
「ほら、やっぱり!桝田さんのお手柄じゃないですか!」
「いやまあ、これでMuse!の評判が上げられるなら良いですけど……」
さらに後日。
ナオコさんが電話をかけてきて。
『ちょっとマスタちゃん!『月刊アイドル』の特集記事見たわよ!』
そこから始まって、小一時間ほど褒め殺しに遭う羽目になった。
いつもお読み頂きありがとうございます。
次回更新は8月の5日です。
次回からは新章になります。お楽しみに!




