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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集2】
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〖閑話6〗第四幕:お部屋拝見

 昼食休憩を終え、リン、ミオ、ハクの3人は再び巡回に出かけていく。ユウとサキはイベント出演が一件入っているのでやはり出かけていき、マイを除く残りの面々は午後からもレッスン漬けだ。

 マイと俺は取材陣が戻ってくるのを待って、事務所で彼らと合流する。


「では、次は皆さんお待ちかねの『アイドルのお部屋拝見』コーナー、行ってみましょうか!」


 カメラに向かって高らかに宣言するタカギさん。

 いやアナタ、見た目だけはにこやか笑顔だけど午前中とは打って変わって悪意剥き出しじゃねーか!


「ええええ!わ、私のお部屋……見るんですか!?」

「おやおや~?もしかしてマイさんのお部屋、()()()だったりするんですかねえ?」


 だが、そう言われた瞬間、マイの目が据わった。

 あーあ、タカギさんマイの逆鱗に触れたぞ。それだけは言うなって釘刺しといたのに。


「そんなこと、ありませんよ。ホコリひとつ見逃しませんから」


「お、おお……なんとも力強いお答えですね。では、早速……」


 あまりに雰囲気が変わりすぎたマイに思わず気圧されるタカギさん。よりによってこの子に向かって『汚部屋』だなんて、マイのことを勉強してないにも程がある。

 というかもしかして、よくある「押すなよ、押すなよ!」のネタ振りだとでも思ってたんだろうか。んなわけねえだろ。


「ここが、私の部屋です。どうぞ」


 そう言ってマイが案内したのは4階の真ん中の部屋だった。

 まだ加入したてで調度品も備え付けのものがメインの、まだまだ改善の余地の大きそうな感じの部屋だ。だが、それでも壁に設えられた棚には、マイが普段使っている掃除用具が所狭しと並べられている。ファンクラブ開設以降にファンの人たちがファンレターと一緒に多くの“掃除用具”を送ってきてくれていて、マイはその中から自分の気に入った物だけを部屋に持ち込んでいる、と聞いている。

 その他にはちょっとした小物棚と窓のカーテン、壁に掛かったコルクボード、それに部屋の真ん中に置いてある小さなローテーブルが目立つくらいだ。

 そのローテーブルの上にはポータブルDVDプレーヤーがある。マイは休みの日には掃除をしてるか、そうでなければこのプレーヤーでナユタさんから借りたMuse!の過去のライブの映像DVDをひたすら見ているらしい。


「ふむふむ、なかなかスッキリしたお部屋ですね。しかも整理整頓されていて結構キレイな……」

「まだ加入したばかりなので、私物はあまりありません。お給料も私はまだほとんど頂いていないので、皆さんからの頂き物が多いです」

「頂き物というと、他のメンバーやファンから……ということですか?」

「はい。あとマス……マネージャーさんから頂いた物もあります」


…あれ、僕何かあげたっけ?


 いや、どうだっけ。こないだコラボカフェでグッズ買ってやったり、何度か買い物つき合ったりはしたけどな。あんま憶えてねえな。


--ふたりとも、そのうち刺されるよマジで?


「ほうほう。なるほどなるほど……」


 頷きながら、何かを目で物色するタカギさん。

 あーもうこの人が何考えてるか丸分かりだわ。


 ひとつひとつ確認するかのようにキョロキョロ見回しつつ部屋の奥まで移動した彼女は、突然カーテンをはぐって窓のサッシに指で触れた。

 そのままスーッと右から左へと指を滑らせる。


…いや、ドラマでよくある例のアレ、本当にやる人初めて見たんだけど。


「一見キレイなお部屋でも、こういうサッシに結構ホコリが…………全っ然ない!?ていうかサッシもガラスもツルッツル!」


「ホコリひとつ見逃しません、よ?」

「ヒッ!?」


 マイさあ、腹立つのは分かるけどもうちょっと抑えような?


「い……いやしかし!ここはさすがにどうでしょうかね!?」


 半ばヤケになったのか、タカギさんは音声さんの集音マイクをひっ掴んで、マイク部分のファーを照明の傘の上にくっつけた。

 いやそれモップじゃねえし。あまりに突然のことで音声さん唖然としてんじゃねえか。


「いくら掃除好きとはいえ、こういう所にまでは普段手が……」

「ホコリひとつ見逃しません、と言いましたよね?聞こえませんでしたか?」


 驚くタカギさんの真後ろに気配もなく忍び寄ったマイが、勝ち誇ったように言う。


…ちょ、待って。マイ今までで一番怖い顔してる!リーパー相手ですらそんな顔しなかったよね君!?


「タカギさん、いくら何でもそれはマイに対する侮辱ですね。彼女のお披露目ライブでの自己紹介、知らないんですか?この子の個人ファンクラブの名称、ご存知ないですか?

取材するならせめて、そのぐらいは勉強して頂きたいものですがね」


 さすがにマイ本人をカメラの前で怒らせる訳にもいかず、やむなく口を挟む。これ以上やらかすなら取材は終わりだ、と言外に強くにじませておくのも忘れない。


「し、失礼、しました……」


 そしてさすがのタカギさんも、そう言ってすごすごと引き下がるしかなかった。


 カメラマンが撮影を止める。

 『お部屋拝見』はそこで終了だった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「あの、マスター。その……すみません……」


 最後に街でのスナップ撮影のためにパレスの外に移動する、その途中でマイが小声で謝ってきた。どうやら我に返って、やっちゃった事に気がついたみたいだ。


「マイは悪くない。あれはタカギさんが全面的に悪いよ。あんな姑息な手でお前を貶めようとか考える方が悪い」

「その、わたし、どうしても我慢出来なくて……。マスターが怒ってくれなかったらどうなっていたか……」

「守ってやる、って言っただろ?心配すんなって。それに、これを見るファンのみんなも味方になってくれるよ」

「そ、そうでしょうか……」

「そうだよ。だから心配いらないよ。それより、いつも通り平常心で、たくさん可愛く撮ってもらえ。な?」

「は、はい……」


 スナップ撮影はカメラマンさんの主導で進められた。タカギさんは心持ち消沈した様子で、それをただ眺めているだけだった。

 撮影は裏の運動公園に始まり、駅前の商店街や大通りなど、何ヶ所かに分けて動画と写真と、それぞれ複数のショットを撮影して回った。

 カメラマンさんはさすがにプロで、ぎこちなかったマイも上手く乗せられて、なかなかの笑顔で何枚も撮られていた。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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