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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【閑話集2】
177/185

〖閑話5〗第四幕:戦う理由

 もう昼近かったこともあり、レッスンは昼からということにして彼女たちを私服に着替えさせ、一旦パレスに戻って全員で昼食を取った。今日は金曜日で調理師さんご夫妻が出てきてくれていたので、自分たちで用意する必要がなかったからとても有り難かった。

 これがもしも土曜日(あした)だったりしたら、この子たちが自分たちで献立を考えて調理しないといけないとこだった。本当にいつもありがとうございます。ごちそうさまでした。


 そのあとは急遽決めたレッスンに突入して、全員みっちりレイにしごかれることになった。アキが逃げようとするのは全員で阻止して、嫌がる彼女は抵抗虚しくレッスン場に拉致られていった。俺も行きは同行したけどレッスン場に残っててもやる事ないし、すぐにレイに任せて一旦事務所に引き上げた。


 事務所でナユタさんと浄化(フェブルア)ライブ開催に向けて打ち合わせして、手分けして関係各所に連絡を入れ日程調整やPR、告知の段取りを組み、合わせて通常のアイドル業務のスケジュールも組み直してゆく。

 こうした業務もいつの間にか慣れてしまった。まだナユタさんほどには上手くやれはしないけど、まあ俺も少しずつマネージャーの経験値が積めている、ってことかな。


 ちなみにアキの水着は、デザインはともかく色を浅葱色(みどり)にするようにファクトリーにリテイクを出しておいた。さすがにあのデザインで色まで紺色ってのはアイドルとしてダメだ。(あかがね)主任が文句言ってたけど、マネージャー権限で却下した。



 各所への連絡と調整、段取り組みに追われて忙しい時間を過ごし、ふと気付いた時にはもう夕暮れ時だった。そろそろあの子たちもレッスン場から引き上げさせないとな。

 てか本来なら今日オフだったのに、結局レッスン(しごと)にしてしまった。ちょっと申し訳なかったな。


「俺、レッスン場に様子見に行ってきますね」

「あ、そうですね。あとはこちらでやっておきますから大丈夫ですよ」

「すいません、よろしくお願いします」


 レッスンにしてもシミュレーターにしても、インカムで通信入れてそれで終わりじゃなくて、なるべく顔を見せて彼女たちと話をするようにしている。信頼感とか連帯感ってそういうとこから生まれるものだと思っているので。

 そんなわけでレッスン終了を告げるべく、俺はパレスを出てレッスン場へと向かった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「マスター。あの……」


 レッスン場の片付けをさせて私服に着替えさせ、全員でパレスに戻る途中でマイが、おずおずと話しかけてきた。


「ん、どした?」

「はい。……あの、白羽(しう)ちゃんって、結局どうなったんですか?」


 彼女は俺とMUSEで保護して新宿から連れ出したあと、魔防隊の職員に預けてそれっきりだ。マイと別れたくなさそうだったが、それでも彼女は特にワガママも言わずに素直に従っていた。

 一応、全員でまた会おうと約束して彼女も楽しみにしているとは言ってくれたけど、果たせるかどうかは正直まだ分からない。だって彼女はこれから、精密検査や認知機能測定などを含めた入院生活が待っているはずだから。

 ——ああ、そうか。そのことも教えてあげないとな。


「あの子は魔防隊の外郭機関で保護する事になったそうだよ。今は多分、ホスピタルで各種検査を受けていると思う」

「そうなんですか。良かった……」


 マイから安堵の感情が漏れる。

 ずっと心配だったんだろうな。


「検査が終われば会いに行ってもいいそうだから、そしたらお見舞いに行こうか」

「はい!お願いします!」


 とはいえ、全員でお見舞いってのも難しいかも知れないから、連れて行くのはマイだけになるかもね。


「わたし、考えたんです」

「……ん?」

「この前、ユウさんが言っていたじゃないですか。『戦う理由を見つけろ』って」

「ああ、言ってたね」

「わたし、許せないんです。白羽ちゃんみたいな悲しいことが東京じゅうで起きていて、なのにそれを誰も止めることができないなんて……」


 彼女、白羽ちゃんは両親をあのリーパーに殺されたと言っていた。それだけでなく、リーパーを『新しいパパ』とさえ呼んでいた。

 彼女とリーパーとの間に何があったのか、残念ながら彼女の記憶が失われてしまったため、おそらくもう二度と判明することはないだろう。だけど、彼女が両親を殺された記憶まで失っていることを考えれば、悪いことばかりではないかも知れない。


 マイから、静かに怒りの感情が立ち上る。

 同時に強い決意と、覚悟と。


 だけど、白羽ちゃんの記憶が失われたからといって、事実まで消えてしまったわけじゃない。もう白羽ちゃん自身を含めて誰の記憶にも残ってはいないけれど、それでも彼女の両親の(かたき)は取らなくてはならない。

 そして、白羽ちゃんとご両親のような悲劇は今も東京のどこかで、毎日のように繰り広げられているはずなんだよな。


「そんな悲しい事が今この瞬間も繰り返されてるってことが、どうしても許せないんです。もし、それを止める力がわたしなんかにあるのなら、わたしたち以外に止められないのなら——」


 マイの瞳に決意の感情が燃えていた。


「わたし、やります!きっと、それが私の『戦う理由』です!」


「ようやく一本、筋が通ったようね」


 不意に声をかけられ振り向くと、ミオが立っている。

 ミオだけじゃない。ユウもリンもレイも、ハルもアキもサキもハクも、全員がマイを見つめていた。


「よく言ったわ、マイ。その決意と覚悟は誇っていいものよ」

「もう。ミオさんはどうして素直に褒めてあげることが出来ないんでしょうか……」


 言い方はともかく、ミオのマイを見る眼差しは優しさに満ちていた。それは皮肉を言っているユウも同じだった。


「アタシは、アンタはやる奴だって思ってたわ!」

「ええ。マイは夢や目標に向かって努力する才能があるもの」


 リンもレイも、マイの決意と覚悟を肯定してくれている。


「すっごーい!マイちゃん、なんか正義のヒーローみたいでカッコいい!」


 ハルは特撮ヒーローものが大好きだもんなあ。でも君も、その正義のヒーロー(・・・・・・・)のひとりなんだけどな?


「……まあ好きにすりゃいいんじゃね?オレを巻き込まないならご自由にどうぞ、ってやつだ」

「私も正直、付き合わされるのはゴメンですね。ただ各々の考えと判断で動く分には自由ですし、お互い好きなようにやる、ということで」


 我関せずのスタンスを貫くアキやサキだが、それでもマイの決意を否定したりはしなかった。


「じゃ、新チームはマイとサキとアキで組んでもらおうかな」

「……は?」

「なっ!?」

「ミオたちのデビューに合わせて3チーム体制に移行するんだから、そういう組み合わせもあり得るってことだよ」


 俺の言葉に驚き唖然とするアキとサキ。そりゃそうだろ、チームとして組んだなら仕事から巡回まで全部三人組(スリーマンセル)になるわけだし、今みたいな寝言とか言わせねえからな?


「——くっ、本当はそんな予定もないのにわざわざそんな事言って、私たちを困らせて楽しんでるだけでしょう!?」

「あ、バレたか」

「バレますよ!マスターが何考えてるかなんて、顔を見れば一発なんですからね!」


「なるほど、顔見たら何考えてるか分かるようになった程度には、常に俺のこと見てるわけだ?」

「なっ、そ、そんな事誰も言ってませんよ!」


「えっ、そうなんですか……?」

「サキちゃんホントにマスターと仲良しだねえ」

「ええ。サキはマスターが大好きだものね」

「ちっ違いますよ誤解しないで下さい!ってだから頭撫でるなぁ!」


 んなこと言われたってな。ハルとリンの次に小柄なサキの頭が、ちょうど撫でやすい位置にあるのが悪いんだよな。


…とか言いながら、絶対わざとやってるでしょ兄さん?






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は7月の5日です。


次回からは〖閑話6〗、マイの1日密着取材のお話。久々にアイドル関連のエピソードになります。

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