〖閑話5〗第二幕:女神たちの水着(2)
「新しい衣装の衣装合わせ?」
「そう。新作ができたって所長に聞いてファクトリーで受け取って来たんだ。今日はオフで全員パレスにいるし、ちょうどいいかなって」
figuraたち全員を呼び出して、レッスン場へと連れて行く。「新衣装の衣装合わせ」としか伝えなかったのは、ちょっとしたサプライズのつもりでもあった。
3階に上がり、レイに紙袋ごと渡してみんなをロッカールームへ送り出し、僕は簡易スタジオの準備室に潜り込んで待つ。着替えが終わって全員がレッスン室に揃ったら呼んでもらうよう頼んでおいたので、そのうち呼びに来るはずだ。
「マスター、そこにいる?もう皆揃ったわよ」
しばらくして、ドアをノックする音とともにレイの声がした。
じゃあ、いよいよ僕も水着姿の彼女たちとご対面だ。ちょっと楽しみ。
いやお前、ちょっとどころかめっちゃ楽しみにしてるだろ。
ってか入れ替わってるのバレるなよ?
…はいはい。ってか僕の存在が知られてない以上、違和感程度しか抱かれないんじゃない?
分かんねえぞ?レイとかハクは結構勘が鋭いからな。
とまあ、脳内口論もそこそこにレッスン室に顔を出す。
ナユタさんに告白されて俺がフリーズしてた間、悠が表に出ていたと聞いた時は驚きしかなかった。だってこの3年間、悠は一度たりとも表に出てこようとしなかったし、実際に入れ替わることもできなかったから。
なので、夜に自室で試してみたわけだ。そうすると本当にできてしまったので、実はレッスン室に向かうためにパレスを出た直後から悠と入れ替わっている。
なんでわざわざ、って?元々は悠がMuse!のファンだったから。今まではそこまでファンでもなかった俺がずっと彼女たちと直接やり取りしていて、悠はそれを俺の中から見ているしかできなかったんだから、直接話せるようになったのなら一度くらいは話させてやりたいと思ったわけだ。
さて、呼ばれてやって来たレッスン室には、色とりどりの水着に身を包んだ女神たちが待っていた。
いやまあ可愛いっちゃあ可愛いけどな。
女神は言い過ぎな。
マイは胸元とボトムスにフリルがついたピンクの清楚系ビキニ、ミオはブルー基調のシンプルなタイプのビキニ、ユウはグリーンをメインに配色した、背中を大胆にカットしたワンピースタイプ、しかもハイレグだ。それぞれ彼女たちのイメージカラーに合わせてある。
レイは純白のシンプルなビキニで胸元には青い薔薇を模したワンポイント付き、ハルは胸元にフリルを強調した黄色のワンピース、サキは胸元を覆うハイネックタイプのトップスになってるライトグリーンのビキニ。
リンはパレオ付きの赤いビキニで、ハクはフリル控えめの黒基調のワンピース。
それぞれみんなよく似合っている。というか若いだけあってかなり眩しい。屋内で夏の日差しもないのにまともに見られないってどういう事なの。
ただ、その中にあって独りだけ、異質極まる水着をまとった子がいる。
そう、アキだ。
「いや予想通りみんな可愛いんだけどさあ。アキ、その水着……」
「……んだよ。なんか文句あっか」
いや文句というか何というか。
「いやそりゃツッコむでしょ。それ一昔前のスクール水着じゃん!」
「どーせオレなんかが水着着たって喜ぶ奴なんざ居やしねえんだからよ、別にコレでいいだろ」
「でもこういうのって、好きな人いるよね〜」
「うっせぇハル。ニヤニヤすんな」
いやスク水がジャンルとして成立してるのは知ってるけどさあ。さすがにそれを地でやっちゃうのはどうかと思うぞ?
「つーか、君もしかしてそれ自分でリクエストしたの……?」
「いや、リクエストっつうかよ……」
「アキちゃんってばアンケートに書いちゃったんだよね〜!『別に着たい水着とかねえし、スク水とかでもイイぞ』って!」
いやいつの間にアンケートとか取られてたんだお前たち。俺全然知らんのだが?
「アキの美的センスは相変わらず理解不能ね……」
「まあ、自分で納得してるようだから、いいのではないでしょうか……」
いや良くねえから。レイもユウも納得しないでくれ!つか美的センスの問題か?
しかしまあ、アキは本当に、ことごとくアイドルの“常識”からかけ離れたことしてくれるよな。お前そんなんじゃイロモノ認定されるだけだぞ?
…まあ、本人も解っててやってるフシはあるけどさあ。
「で?他になんか言うことないのマスター?」
「うん?」
「うん?じゃなくてさ。——ホラ、なんか言うことあるでしょアタシたちに」
「あ、ああ、うん。みんな可愛いと思うぞ?」
…ってちょっと兄さん!何しれっと表に出てるの!?
え?……ああ、なんかいつもの癖で。
「ってリアクションうっす!」
「あら、ストレートな褒め言葉じゃない。とてもマスターらしいと思うわ」
「わぁーい!マスターにほめられたー!」
「ふふ。褒めて頂いてありがとうございます♪」
「……いや、あの程度で喜んじゃうんだアンタたちって……」
リンは大層ご不満な様子だな。よし、じゃあ悠ちょっと褒めてやれ。
…えっマジで?いいの!?やった!
「いやでも実際みんなすごい可愛いと思うよ?なんかこう、みんなの水着姿見てるだけで後ろに太陽と青い海と白い砂浜が見えてくるっていうかさ。特にリンとかレイ、ユウなんか抜群のプロポーションがより引き立って輝いて見えるし、なんていうか、浜辺に舞い降りた天使?いやむしろ女神って言うべきかな?」
悠に褒められてみるみるうちに真っ赤になっていくリンの顔。褒めろ褒めろと言う割に、褒めたらすぐ照れるんだよな。
「だ…………だーもう!褒めすぎよ!だ、誰もそこまで……褒めて欲しいとか言ってないし……」
「……はあ。褒めろと言ったかと思えば褒めるなと言うし。リンは相変わらず支離滅裂ね」
「ふふ。でもミオ、こうやって照れてるリンも可愛いと思わない?」
「そう言うミオも相当イイよ?引き締まった無駄のない身体、しっかり割れた腹筋が何ともセクシーだし、機能美だけじゃなく華やかさも兼ね備えた、まさにミオらしい水着!イメージカラーの青もよく映えてるね!」
「えっ……!?あ、ありがとう……ございます……」
まさか自分に矛先が向くとは思わなかったようで、ミオもたちまち顔を赤らめて俯いてしまった。油断大敵って言葉、覚えとこうな?
「ハクもいいよね!イメージとはちょっと違う黒のワンピって、なんかこうギャップ萌えというか、意外性がすごくイイね!」
「……?マスター、可愛い……ですか?」
「うん!可愛い可愛い!」
あー、そろそろ止めとかんとバレるぞ悠。
--悠兄ってさ、ホント残念なイケメンだよね。
顔がいいのはまあ、事実だよな。
…待ってまだ全員褒めてないから!ってハルカも兄さんもひどくない!?
「マイのも、フリルが要所に効いてて可愛らしいよね!大人すぎず、かといってそこまで子供っぽくもなく、色合いも含めてまさにマイにピッタリの水着って感じ!」
「ぇえ!?わ、私なんてそんな……ちんちくりんだし、胸もないし、全然可愛くなんて……」
「何言ってんの自信持ちなって。マイはすっごい可愛いから。僕が言うんだから間違いないって!」
「はうぅ……は、恥ずかしいですぅ~!」
はいはい、もういいから引っ込め。
マジでバレたらどうすんだ。
…ちぇっ。まだハルとサキが…………サキ?
「もういいです。
よーく分かりました」
そう言い放って腕組みしたサキの全身からは、赤黒いアフェクトスが色濃く溢れ出ていた。
いやサキさん?何を怒ってらっしゃるの?悠が後回しにしたのがそんなに気に入らなかったか?
「マスターは水着の女の子をはべらかして楽しむ性癖があると。
よーく分かりましたよ」
いや何故2回言ったし。
てか何か勘違いしてる?
「最っ低ですよこのエロオヤジ!」
「いやそんなつもりは……」
「ありますよね!?」
「あっハイ。いや違」
「今、この場に男性はマスターひとりだけ。対して周りには水着姿の女の子が9人も!
いくら私たちが可愛いからって、囲まれてチヤホヤされてだらしなく鼻の下伸ばして!キモいったらありゃしない!」
「いやそれは考えすぎだって……」
「そんなだらしない顔で言われたって説得力ありません!」
うーん、悠を表に出したのが裏目に出たか~。
…僕知ーらないっと。
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次回更新は25日です。




