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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第二十二幕:リーパー討滅作戦(2)

 サキが“舞台(スケーナ)”を展開する。

 予定通り、リーパーと9人のMUSEと俺、それに先ほど壊したばかりでまだ周囲を漂っているアフェクトスまで、まとめてスケーナに閉じ込める。

 まあアフェクトスに関しては半分近く漏らしたけど、これはすでに霧散した分なのでおそらくサキでなくても回収は不可能だったろう。


 得られるはずだった膨大なアフェクトスを奪われて、リーパーが吼える。スケーナどころか空間全体をも壊しかねないほどに、空気が震える。


「ったく、なんてデタラメな……!」

「サキ、落ち着いてスケーナの維持に集中してくれ。後はこっちで何とかするから」

「分かってますよ!ていうか頼みましたからね!」



 そうして開始された戦闘は激烈を極めた。

 レイ・ミオ・アキ、それにユウ・ハル・ハクの計6人を、3人ずつ一斉に飛びかからせる。3人1組(スリーマンセル)をふたつ、前衛(フロント)後衛(バック)に見立てて戦わせたわけだ。なおリンはサキと俺の護衛、そしてマイはリーパーの目を引く誘導役だ。


 マイが上手くリーパーを引きつけて、リーパーが彼女を追おうとする瞬間に死角から3人ずつ攻撃を加える。リーパーがそれを振り払おうとするたびに3人は素早く散開して回避し、すぐさま他の3人がやはり死角から攻撃を浴びせる。

 全員の意志と呼吸がピッタリ合っていなければ到底取れない戦法だった。そういう意味でも、リーダー3人の『迷宮』を踏破しておいたのはプラスに働いたのかも知れない。


 さすがのリーパーもあちこちに意識を逸らされ、意識の向いていない方向からの攻撃を受け続け、少しずつ弱っていった。


「——————!」


 悔しげに咆哮するリーパー。

 だが攻め手を緩めるつもりは誰にもない。


 少しずつ、だが確実に、リーパーの姿は傷だらけになっていく。マイを追うことを諦めてスケーナを破壊しにかかるが、サキが必死に維持したためにそれも徒労に終わっていた。

 もしサキのスケーナが破られれば、その時には即座にリンが代わって展開する手はずになっていたため、仮に破られたとしてもリーパーの逃げ道はなかった。


「ミオさん、ハルさん、これ!」


 サキの『霊核(コア)』からアフェクトスの光が迸り、ふたつの『鍵』が現れる。サキはそれをリーパーに一番近かったミオとハルに投げて寄越した。

 ミオとハルは『鍵』を受け取り、そのまま互いの『霊核(コア)』に差し込んで回す。彼女たちの『霊核(コア)』からもアフェクトスの光が迸り、ふたりの姿はその光に包まれた。

 MUSE最強の必殺技、“記憶の破壊ダムナティオ・メモリアエ”の発動だ。


 この技は多大な魔力(マナ)を必要とするため、通常は魔術師が複数集まって力を合わせる「儀式魔術」でしか発動できないと聞いている。体内に『霊核(コア)』を埋め込まれて擬似的な魔術師になっているに過ぎないfiguraたちがこの技を発動させるためには、戦闘中に魔力ならぬ感情(アフェクトス)を溜め、必要量に達するまで錬成しなくてはならない。そのため、通常の戦闘ではなかなか使う機会がないものだ。

 逆に言えば、リーパーはこの“記憶の破壊”が発動できるまで耐えられているということ。それだけでもコイツが難敵だということがよく分かる。


 濃密なアフェクトスのオーラを纏ったミオとハルが、リーパーに対して持てる力の限りを全て叩き込む。ミオが両手剣を横薙ぎに一閃し、その直後にハルがハンマーをフルスイングの要領で叩きつけた。

 どちらも通常攻撃の10倍はありそうな、重くて強烈な、必殺の一撃。


 吹っ飛ばされるリーパー。砂塵が巻き上がり視界が奪われ、瞬間的に戦況の確認が不能になる。


「……やったか!?」


 思わず声が出る。今のは確かに手応えがあったはずだ。


「おいマスター。フラグ立てんな」


 ひどくつまらなそうなアキの声が聞こえた。


 視界が戻った時、リーパーはまだ立っていた。

 すでに全身ズタボロで、全身あちこちからアフェクトスの五色の煙を漏らしながらではあったが、それでも奴はまだ抵抗の意志を保っているように見えた。


「これでもまだ倒れない、ですって!?」

「ふえぇ~、タフだねぇ」

「ほらな。誰かさんが余計なこと言いやがるからよォ」


 ミオもハルもさすがに呆れている。

 アキが白けたように呟いた。

 いや待て、俺のせいじゃねえだろ。


「————————!!」


 リーパーが再び咆哮する。


『ぜ、前方に新たな敵性反応!

きょ、巨大な“ゲート”が出現します!』


 悲鳴にも似た、ナユタさんの叫び。

 リーパーの直上、空中に、今までに見たこともない巨大なゲートが一瞬で姿を現した。

 そんな馬鹿な。“舞台(スケーナ)”の中に直接出現するとか有り得るのかよ。


『ゲートだと!こんな時に!』


 珍しく動揺した所長の声がインカム越しに聞こえてきた。マズいな、こっちだってゲートの出現なんて想定してないぞ。これで仲間なんて呼ばれたら戦線が崩壊する。


「慌てないで集中しなさい!何が出てきても撃破するわよ!」


 リンの叱咤は、だが、悪い意味で空振りに終わった。


 ゲートの“門”が開く。

 だが、そこからは何も出ては来なかった。

 追加の召喚に備えてMUSEたちの動きが止まった一瞬を、リーパーは見逃さなかった。奴は素早く跳躍してゲートの枠に手をかける。


 次の瞬間、リーパーは“門”の中に姿を消していた。

 “門”が閉じられる。

 そしてさらに次の瞬間、ゲートは出現時と同じく一瞬で姿を消した。


「な…………っ」


 あまりに想定外の事態に、誰ひとり、動けなかった。


『は、反応…………消失!

ゲート、リーパーごと、消えました……』

『なん、だと……!?

くそ、何たることだ!あと一押しだったというところで!』


「マジかよ……ウソだろ……」


 これまでゲートは数多く討伐してきたけれど、全て『召喚型』だった。だからまさかこの土壇場で、『召還型(・・・)』のゲートが出現するなんて誰ひとり予想だにしていなかった。


「……歯痒いわね。ここまで追い詰めたのに逃げられるなんて」


 レイが唇を噛む。

 力尽きたように、サキの“舞台(スケーナ)”が溶けていった。


『ナユタ、周囲を捜索しろ。それから——』

白羽(しう)ちゃんの所に行かないと!」


 所長の言葉を遮るようにマイが叫ぶ。彼女はそのまま独りでパンデモニウムをめがけて走り出した。


「あっおい、待てマイ!ひとりじゃ危ない!」


 駆けてゆくマイと、力尽きて崩れ落ちるサキと、どちらを優先するか一瞬迷った。迷ったが、


「ユウ!マイを追って!」

「了解!」

「アタシも行くわ!」


 マイの方はひとまずユウとリンに任せることにして、サキに手を伸ばしてその背を支える。すぐそばにいたから、彼女が倒れ伏す前にかろうじて間に合った。


「サキ、大丈夫か!?」

「……大袈裟に、しないで下さい。ちょっと……疲れただけです……」

「よく頑張ったな。偉かったぞ」


 どう見ても『ちょっと』ではないが、それでも彼女は強がって見せた。ふらついて倒れそうになるのを、支えてやりながら座らせる。普段なら激しく抵抗するところだろうが、大人しく肩を抱かれたままになっているあたり、相当消耗しているのがよく分かる。

 レイやハル、それに他のみんなもサキを心配して駆け寄ってきた。


「……マスターも白羽ちゃんの所に、行ってあげて下さい。こっちは、レイさんに、付いててもらいますから……」

「ええ。サキのことは任せて、マスター。ハルもアキもミオもいるから大丈夫よ」

「うん!サキちゃんいーっぱいがんばったから、ハルたちが守るね!」

「ああ?オレもかよ!?」

「あったり前じゃーん!」


「……みんな、悪い!少し休んでてくれ!」


 考える暇はなかった。

 次の瞬間にはもう、駆け出していた。


「マスター。護衛、します」


 ハクが駆け寄って隣に並んできた。一瞬で追いついた割にこちらのスピードに合わせてくれる。


「悪いね、頼んだ」

「はい。お役に立ちます」


 そうして俺とハクは、マイたちの後を追って再びパンデモニウムに踏み込んだ。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。



【新宿伏魔殿-パンデモニウム-突入】は全二十五幕で確定しました。もうしばらくお付き合い下さい。


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