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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第二十一幕:リーパー討滅作戦(1)

「所長は昨日のブリーフィングで、ずいぶんカッコいい事を言っていたようですが……」


 サキの声が不意に耳に入ってきて、それで意識が目覚めた。


「要するに、単なる『釣り』ですよね、これ。——やれやれ、これの一体どこに、知性の輝きとやらがあるんだか」


 前後の文脈がよく分からんけど、これはちょっと訂正の必要性を感じるな。


「お前、『単なる釣り』って言うけどな。これは鹿児島は薩摩の戦国大名・島津氏がもっとも得意とした戦法で、『釣り野伏せ』という立派な戦術なんだぞ。当時これは島津氏の必勝の戦略で、敵対した戦国武将達の心胆を寒からしめた——」

「あー、はいはい。歴史オタクの無駄に長い講義ほどウザいものはないんで黙ってて下さい」


 なぜだか、サキの塩対応がひどく心安らぐ。

 なんだろう。不思議と抗議の声を上げる気にもならない。


…やーっと帰ってきたよこの人。

いくら何でも半日も機能停止(フリーズ)するはちょっとどうかと思うよ?


 いや悠が何言ってるかちょっと分かんない。


--分からんのかいっ!


「はいそこ、無駄話しない!ちゃんと作戦通りにやりなさいよね!」


 リンがガミガミしてるのもいつも通りだ。

 ああ、いつも通りっていいなあ。


「って、作戦?……作戦ってなんだっけ?」


「ちょっと!?シャキッとしなさいよマスター!今朝のミーティングでさんざん確認したじゃない!」


 あれ。そう言えばここは…………新宿?

 待って全然憶えがねえぞ?


…だって兄さんたら、ずーっとフリーズしっぱなしだったんだもん。仕方がないから、朝のミーティングは僕が出ましたー。


 いやいや『出た』って待てお前。そんな簡単に()()出て(・・)、バレたらどうするつもりだよ!?


…だってしょうがないじゃん、兄さんが全然帰ってこないんだから、誰かがカムフラージュするしかないでしょ?誰かっていうか、それやれるのって僕だけじゃん。

とにかく、もう始まるから作戦遂行して。昨日の作戦概要書通りだから。それはさすがに憶えてるでしょ?


 えっ、もう始まるって!?なにが!?


『ではこれより、リーパー討伐作戦、第1段階を開始します。

マスター、リンちゃん、サキちゃん、よろしくお願いしますね』


 ナユタさんの声がインカム越しに聞こえてくる。

 うっ……昨日、何かあったような……。


「了解!行くわよ、マスター!」

「えっえっえっ、ちょっと待てリン。おい待てってば!」

「何やってんですかマスター!今ごろ寝ぼけたこと言わないで下さいよ!」


…さあ、僕知ーらないっと。


 わけも分からないまま、リンとサキを追って俺もパンデモニウムに突入する。

 ——あれ、待って?作戦概要通りならマイもいるはずだよな?


「マイさんはあんたが“野伏せ”の方に回したでしょーが!」


 えええええ!?おい悠何やってくれてんだ!

 ふたりだけでリーパー誘き出せってかぁ!?


…僕らはリーパーの誘き出しというより、白羽(しう)ちゃんの確認と保護だもん。それにマイにはリーパーだけに集中してもらった方が絶対いいし。


 いやだからって、リーパーが釣れるまではアレと戦うんだぞ!?いくら“舞台(スケーナ)”を張らないとは言ってもな——


--いいから走れっつの!はぐれたらボクら死ぬよ!?


 脳内で口喧嘩している間にも、リンとサキはパンデモニウム内を駆けてゆく。あっという間に彼女たちは最奥部の“狩り場”に到達する。

 そこに、昨日と同じように、少女が立ち尽くしていた。


「白羽ちゃん!」


 良かった、まだ無事だった。

 怪我もないし、顔色もいい。健康状態に問題はなさそうだ。


「おじちゃん……誰?」

「おじっ……!?」

『リーパー、頭上より急速降下!』


「くそっ、散開!」




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 作戦はまあ、概ねこちらの思惑通りに推移していた。リーパーは相変わらず強大だったし、“舞台(スケーナ)”のサポートがないぶんリンもサキも防戦一方だったが、それでも何とか互角に近い所まで善戦していた。

 だが、このままではジリ貧だ。

 早く第2段階を開始してもらわないと。


「——っ!コイツ、ホンット無茶苦茶ね!」

「本当、嫌になりますよ!——ナユタさん、こっちはそろそろ限界ですよ!」


『準備、整いました!ユウちゃん、よろしくお願いします!』


『じゃあ、始めましょうか。皆さん、準備はいいですか?』

『うん、OK!早くサキちゃんたちを助けないと!』

『はい、大丈夫、です。

準備運動も万端、なので』


 インカムからナユタさんに続いてユウ、ハル、ハクの声が聞こえる。

 いいから早くして!


『では……少しもったいないけど。えい!』


 ユウのその声が聞こえた途端、かなり離れたパンデモニウムの最奥部にいても膨大なアフェクトスが解き放たれたのが解る。

 昨日のリーダー3人の記憶の奪還で得たメモリアクリスタルを全部壊すとか、正直言って正気の沙汰じゃないとは思うけど。でも所長が決めた事だし仕方ない。


『メモリアクリスタルの破壊を確認!アフェクトス反応、拡大しています!』


 これだけのアフェクトスが解き放たれれば、リーパーも当然気付く。奴は今まで戦っていたリンやサキを放ったらかして、瞬時にパンデモニウムの外に向かって移動を始めた。


『想定通りです!リーパー、アフェクトス反応を追って移動を開始しました!』

「……ふう。やれやれ、やっとですか。でも助かりました」

「アタシたちも追うわよ!」


 リーパーを追って駆け出すふたりを俺も追おうとして、ふと白羽という少女の方に目をやる。彼女は何が起こっているか分からずきょとんとしていた。


「少し待っててね。後でまた来るから」


 一言言い残して、返事を待たずに彼女たちの後を追った。

 本当はこのまま連れて行きたいが、今から始まる対リーパーとの総力戦の戦場に連れて行くわけにもいかないし、彼女に割く護衛戦力もない。パンデモニウム内がリーパーの縄張りで他にオルクスが見当たらない以上、無事を信じつつ置いていくしかなかった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




『リーパー、アフェクトス反応を追跡中!

目標地点まで、5、4、3、2、……1!』


 リーパー討滅の決戦地点に設定されていたのは、あの“墓標”だった。


 悠が“死んだ”場所。

 そしてリーパーが“生まれた”と思われる場所。

 そこが、今からコイツの“墓場”となるわけだ。


…ここを目標に設定したのは今朝のミーティングだったよ。多分、昨日の話を踏まえて変更したんだろうね。なかなか粋な計らいしてくれるよね。


 いや粋かどうかは知らんけど。


「ここまでです、リーパー!」


 限界までダッシュしてようやくその場に辿り着いた時には、リーパーの目の前にマイが立ちはだかって睨み合いを始めていた。

 その彼女とリーパーを囲むように、6人のMUSEが陣形を組んでいた。


「さあ、これで包囲したわよ!覚悟しなさいリーパー!」

「さ、駆逐の時間です」


 リーパーを追ってきたリンとサキが奴の退路を塞いで、それで包囲網が完成した。


「飛んで火に入る夏の虫……。ここなら、全力で戦えるわ」

「いいからとっとと始めようぜー。やっこさんも()()()みてえだしな」


 ミオとアキもいつになくやる気だ。ふたりはマイの後方左右からリーパーを睨みつけている。


「ま、間に合った……!」


 ようやく追い付いて配置に付いた俺をチラリと確認してから、レイが厳かに宣言する。


「光栄に思いなさい、リーパー。アナタのために9人のMUSEたちが揃ったわ。

——さあ、踊りましょうか!」


「久方ぶりの総員戦です。——マスター、指示をくださいよ」


 そう。これはあのソラが消失(ロスト)した戦闘以来初めての、MUSE全員による総力戦。それが今回のリーパー討滅作戦なのだ。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は20日です。

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