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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第十八幕:秘密の告白(3)

「捕食者だと……?まさか、それはお前自身のことか……?」

「そのまさか、ですよ」


 ていうか今の文脈で、それ以外に誰がいるんだって話よね。


「“捕食者”ってそんな……!マスターはマスター、です……よね?」

「そうですよ!桝田さんは人間じゃないですか!いくらそんなことがあったからって、オルクスが桝田さんを“捕食者”だと認識するなんて……!」


 3人それぞれの驚愕の感情を眺めつつ考える。

 んー、証拠を見せた方が分かりやすいんだが。


--ボクはオススメしないよ。暴走したらどうすんのさ?


…僕もハルカに同意見かなあ。今度は抑えられるとは限らないし。


 まあ、アレを抑えるのはハルカの手助けが必要だからな。

 じゃあ、右手だけなら、どうだ?


--オススメしないってば。

疑われてて、証拠見せないと収まらないってんなら仕方ないけどさあ。


 じゃあ、雰囲気だけな。


「ナユタさん、“マザー”のアラートを確認してて下さい」

「えっ?桝田さん、なにを……?」


 返事の代わりに、あの日のイメージを頭の中で再構築する。

 あの時、廃墟と化したビルの窓ガラスに映っていた、人ではないナニカを。


--もう!ダメだって言ってんのに!バカ兄貴!


 紫の感情(アフェクトス)を全身に纏うイメージ。具体的には、血管全てに血液の代わりに流すイメージ。

 いや、人であるイメージを(・・・・・・・・・)消してゆく(・・・・・)、と言った方が正しいか。

 精神が暴走しないよう細心の注意を払いながら、少しずつ、ゆっくりと。


 そうして俺の右腕が、肘の先からゆっくりと解放(・・)されてゆく。血の色と紫色に染まった、“捕食者”の腕に。


「…………ええっ!?」

「なっ……なんだと……!」

「マスター……!?」

「ま、“マザー”がオルクス反応を検出!

こ、この反応は……ウソ!?」


 その反応まで見たところでイメージをかき消し、人としての自分を強く強くイメージする。

 ハルカ悪い、あと頼む。


--次やったら知らないからね!


「は、反応消失……!」

「まさか、お前……本当に……!」


「……ナユタさん。今の反応、見覚えありますよね」


 俺の言葉に彼女の全身が震える。

 激しい恐怖と、混乱と、怯えの感情。

 堪えきれなくなったようで、彼女はそのままその場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。過呼吸のような荒い息を吐くだけで、言葉も返せない。

 モニター越しではなく肌で直に感じたのだから、一般人のナユタさんが言葉も出ないほど怯えても当然だ。


「今の、反応……リーパー……」


 それでもかろうじて、その一言だけ彼女は振り絞った。


「何だと!?バカな!」

「そんな!」


「ご名答。アイツはおそらく、俺があの場所に居座ったことで発生した残滓(・・)です。それがあれだけの強さを持っているんです。だったら本体(・・)の強度は推して知るべし、ですよね?」


 あー、今多分、人相から変わってんな。


--知らないよ。自分のせいだからね!


「念のために言っておきますけど、俺は人間である事を止めるつもりはありません。あくまでも人間として、figuraたちのマスターとして、(くろつち)所長の部下として、自分を最期まで保ち続けるつもりです。

でも、その意志をわずかでも裏返す(・・・)だけでこうなる。

認めたくはないですけど、俺は人間であると同時にオルクスでもあるんです。その事実はもう、覆りません」


 話を聞く3人ともが無言のままだった。

 感情はもちろん、言わずもがなだ。


「もし今後、今みたいに“暴走”してしまったら、その時には責任持って止めてくれるよう、すでにユウには話してあります。その意味でも今見せることに意義があると思ったから、敢えてほんの少しだけ、自分が抑えられる範囲内でだけ、見せました。

今この場で討伐するというのならご自由に。俺は抵抗するつもりはありません」


 さっきの俺の姿に反応して、虹色の瞳になったままのユウの視線を感じながらそう宣言する。

 少し精神も落ち着いてきたから、そろそろ人相も戻っていると思うが。


「……今後も完璧に抑えられる自信は、どの程度あるのかね?」


 厳しい表情で、所長が問うてくる。

 返答次第によっては、というやつだな。


「今のところは、不意に意識を失っても完璧に抑えておけますよ。そして抑えているうちは、オルクスたちにこれを悟られることもありません。

それは、こないだ襲われて負傷し意識を失ったことでも実証済みだと思いますが」


 アレを抑えているのは俺じゃなくてハルカだ。だから俺自身が怪我をしようとも意識を失おうとも、ハルカがいる限りは大丈夫。

 まあ、だからってハルカにばかり負担かけさせるわけにもいかないから、負傷や失神は可能な限り避けたいのが本音だ。俺の意識が保たれてさえいれば、アレを抑えるのはそう難しくはないってハルカも言ってたしな。


「……たしかに、言われてみればその通りだな。今の姿を完璧に抑え込んで隠せていたからこそ、あの時もああも簡単にやられる事態に陥った、ということか」

「アレを抑え込むのは、俺だけじゃなくて悠の力も借りてます。むしろ割合としては悠の方が大きなウェイトを占めています。だから今のところは心配ない、と言い切れる状態ですね」


…えっ僕ほとんど何もしてないけど?


 だってまだ明かしてないハルカの名前を出すわけにいかんだろ。


…まあ、そう言われればそうだけどさ。


「……そうか、お前の中には“もうひとり”いるんだったな」


 ようやく所長が納得したような表情を見せる。

 正確には、ひとりじゃなくてふたりいるんだけど……まあいいか。全部話すつもりがないのは最初からだし。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は5月5日です。

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