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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第十七幕:秘密の告白(2)

「……で、結局ナユタにも話さざるを得なくなったと。そういうことかね?」

「まあ、はい。で、話すんだったら所長の了承も得ないと、と思いまして」


 作戦指令室の奥にある司令官室。

 そこに俺とナユタさん、それにユウは移動してきていた。所長にはインカムの個別通信を使って人に知られないよう降りてきてもらった。

 シミュレーションルームでは秘密の会話が出来ない。それはたった今、ユウに聞かれてしまったことでも判る通りだ。でもここなら所長に隠したい話以外は何でも話せるし、この場に居合わせた人間以外に聞かれることもない。


「桝田君が話しても構わないと判断したのなら、いちいち私の許可を得なくてもいいと思うがね?そもそもあれは君の身の上話なのだから」

「ただの身の上話じゃないと知っててそれ言うの、ちょっと卑怯だと思いますけどね」

「卑怯、とは随分な言いようだな。君自身のことを誰にどう話すかは君が自由に決めること。私が口を差し挟む事ではないだろう?」

「俺が『マスター』として話すことは、その一義的な責任は貴方にある、そう言ってんですよ。違いますか?」

「無論、『マスター』の発言ならな。——だが、この話はマスター云々以前の問題だろう?」


 俺個人の話で済むのなら、所長には事後報告で充分だ。でも話の内容が内容だからな。


「まあ、まだ話してないからそれと気付かないのも無理はないですかね。マスターとしての話(・・・・・・・・・)になるんですよ、これから」

「……なに?」

「だからわざわざこの場所で、所長にも聞いてもらおうとしてるんです。そこは察してもらえるかと思ったんですが」


 横で聞いてるユウが、何やら様相が変わってきた事に戸惑っている。最初から何も知らないナユタさんは、何を言っているのか意味が解ってなくてやはり戸惑っている。

 でもこうなったら、現時点で必要だと思うところまで話してしまうしかない。その覚悟はもう、固まっていた。


「……まさかと思うが、私にも隠している話がまだあるというのかね?」

「全体の6割ぐらいですかね、今まで話したのは」


--いや話してもいいとは言ったけどさあ。

いきなりぶっちゃけすぎじゃない?


 心配すんな。全部話すわけねえだろ。


…こないだみたいに、芋づる式に引っ張り出されないようにね?


「半分強、だと?

……ほう、興味深いな。では、聞かせてもらおうじゃないか」

「まあ、ナユタさんがいるんで、まずは最初からですけどね。聞いた話の繰り返しにはなりますが、少しお付き合い下さい」


 そうして俺は、再び『新宿』で起こった事を語った。今度はちゃんと時系列を合わせて、順番に。

 3年前のあの日、新宿に出掛けて弟とともにオルクスに襲われたこと。弟を喰われたこと、弟を喰ったオルクスを喰らい返したこと。そうしてオルクスの性質を獲得したこと、だから記憶や感情の喪失は効かないこと。

 弟の自我をも取り込んで異心同体になったこと。その後に弟の名を名乗るようになったこと。弟の自我と入れ替わっている間の記憶がないこと。


 みるみるうちにナユタさんの表情と感情が激変していく。相当ショックを受けているのがよく分かる。覚悟もなしにこんなおぞましい話を聞かされるんだから無理もない。

 この人にこういう顔をされたくなかったから、言いたくなかったんだよな。でももう仕方のないことだ。バケモノ扱いされる覚悟はもう出来ている。


 あの後、どうやって新宿を脱出したのか話す。ようやく渋谷駅方面に脱出を果たした時には1週間ほど経過していたこと、その頃にはすでに新宿は封鎖されていたため脱出するのに苦労したこと、人目に付かない深夜に裏路地を抜け、さらにボロボロのまま家まで歩いて帰ったこと。

 このあたりは所長にも話さなかったことだ。


「待て。旧都庁、今のパンデモニウムや新宿駅近辺からなら渋谷はそう遠くないはずだが?なぜ脱出に1週間もかかったのかね?

オルクス発生直後の封鎖体制はまだまだ甘かった。幹線道路と鉄道路線、それに地下鉄を何とかシャットアウトしただけで、私有地や路地などいくらでも抜け道はあったはずだ」

「まあ、それはもう少し後で話します」


…あの姿から元に戻るまで、時間かかったものね。


--あれタイヘンだったんだからね!


 途中、リンから電話が入った。

 インカムに誰も応答しないの何でよ!今何時だと思ってるのみんな食堂で待ってるのに!ていうかアンタたちどこにいるのよ!?と早口でまくし立てるのを押し止めて、今ちょっと所長に呼ばれて話してるから、先に食べててとだけ話して電話を切る。

 時刻を確認すると、夕食予定の7時をとうに過ぎていた。まあそりゃ怒るわな。


「……私のせいにされるのはいささか心外だな」

「リンはああ言っておけば疑わずに納得するんで。——で、どこまで話しましたっけ?」


 さらに、それから感情を“色”として見分けられるようになったことも話した。色ごとに整理し実際の感情と整合し、独自に分類してそれ以降の3年間でデータとして蓄積してきたことも。

 その能力もおそらく、オルクスの性質を獲得したことによるもの、とも説明しておいた。


「あ……あの、その話、本当なんですか……?」

「信じられなくて当然ですけど、本当ですよ。パンデモニウムの手前にオルクスの寄り付かない地点があったでしょ?あそこが現場です。あそこで悠が喰われ、俺がオルクスをあの標識で仕留めて喰ったんです。

だからあの標識は墓標です。あれがある限り、あいつらは喰われると思って近寄っては来ません」


「……待て。その話は本当か?人の身でオルクスと戦って勝てるとも思えんが」

「どういう原理か詳しくは知りません。でも戦えたのは事実です。そして喰えるとも思えなかったけど、実際に喰えてしまったのも本当です。

まあ今にして思えば、あの時の俺は色々とおかしかった。それは否定しません。もしかするとあの時点でもう既に……」


「……まあいい。実際に体験した本人にも説明の付かない事象はあるだろうし、その整合性を今ここでとやかく言っても仕方ない。

とにかく、だからあの場所にだけはオルクスが寄り付かない、そういうことだな?」

「はい。まあ、そういうおぞましい場所なんで、この話はfiguraたちには内緒です。知ったら誰もあの場所で休憩出来なくなります」

「ユウには聞かせてしまって良かったのか?」

「ユウは現地にいた時にもう気づいてましたから。顔色変えかけたのを目配せして抑えましたけど」

「はい。私……サキちゃんとミオさんが話してるのを聞いていて、不意にマスターと所長のお話を思い出してしまってビックリしたんです。それで、思わずマスターの方を見たら、じっと見つめ返されてわずかに首を左右に振られたので……」


「まあ、そういうことです。——そして、ここからが本題です」


 一度、言葉を切ってから全員の顔を見回す。


「ヤツらがあの場所に寄り付かないのはそれだけが原因じゃありません。

あの場所に、しばらく捕食者(・・・)が居座っていたからです」


「……まさか、それはお前自身のことか……?」

「そのまさか、ですよ」






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は30日です。

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