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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第十六幕:秘密の告白(1)

「ゆ、ユウ!なんでここへ!?」

「いえ、気持ちを落ち着かせるために少しシミュレーターを使おうかと思ったのですが……」

「えっ、ええと、まだ更新作業中で……!」


 今まさに話題にしていたユウが現れたことで、ナユタさんも俺と同じくらい驚いている。それを必死で顔に出さないようにしているが微妙に出来ていない。

 それを見たユウから猜疑の感情が立ち上る。

 いや待ってこの子、どこまで聞いてたんだ!?


「まさか、彼女のことを聞いてらしたんですか?」

「い、いや、聞いてたっつうかなんつうか……」

「聞いていたんですね?そしてナユタさんも、教えてしまったんですね?」

「え、えっと、その……」

「その、アレだ。なんでみんなが彼女のことを憶えてるんだろうって。そこだけ気になったんだ」


 この期に及んで下手に隠し立てするのは却って逆効果だ。だからもう、正直に言うしかない。


「だ、だってほら、オルクスとの戦いで消失(ロスト)したんならこの世界から記憶が失われるはずだろ?だけど彼女のことはみんなが憶えてるじゃないか。ミオたちが彼女の話をしてもみんな誰のことか分かってる様子だったし、さっきもユウが喚び出しちゃったからナユタさんにも見られたわけだし。だから今なら、そこだけでもナユタさんに聞けるかなって、それで……!」


「…………そうだったんですか」

「そ、そう!そうなんですよユウちゃん!それ以上の事は、私何も言ってませんから!」


 ナユタさんも慌てて同調する。

 ユウはまだ少し疑っているようだったが——


「仕方、ありませんね。確かにその事に関しては、私ではちょっと説明しづらい話ですから……」


 何とか矛を収めてくれたようだ。


「心配しなくても、影でコソコソ調べたりはしないから安心しろって。俺が自分で君らが教えてくれるまで待つ、って言ったんだから、その約束はきちんと守るよ」

「……申し訳ありません。少しだけ、疑ってしまいました」

「いや、こっちこそ、疑わせるような事して申し訳なかった」


 ふう。何とかこの場はしのげたかな……


「ところでマスター、例のお話、結局ナユタさんにはまだ隠されたままなんですか?」

「えっ?」

「ナユタさんも知る権利があると思いますし、打ち明けてもきっと受け止めて下さると思うのですが」


…えっ待って?

急に何言い出しちゃってるのこの子!?


 いやもうナユタさんの顔が察しちゃってるじゃねぇか!そしてなんでその話をユウが知ってるのか疑ってんじゃん!


「あの、桝田さん、もしかして……

ユウちゃんには話したんですか……?」


 いやそんな悲しそうな顔しないで!

 盗み聞きされただけなんだから!

 ていうかユウのKYさはある種のチャームポイントだと思ってたけど、これとんでもねえ諸刃の剣だなおい!


「あのさあユウ」


 ちょっとこれは、もう誤魔化して済ませられるような問題じゃない。ここでガッツリ言っておかないと、この先も彼女はきっとまたやらかす(・・・・)だろう。

 それでなくとも、この子は他の子たちとは違って色々と秘密を知りすぎているわけで。こんな暴露を二度と起こさせないように釘を刺す必要がある。


「ナユタさんに隠してるの分かってて何で今それを言うわけ?隠してる理由だって分かるだろ?盗み聞きしただけでなく、断りもなしにそうやって勝手にバラされるのは、ちょっと俺も腹に据えかねるぞ?」

「えっ、盗み聞き……!?」

「マ、マスター……?」


「俺あの時言ったよな?『誰にも言わないでおいてくれるならそれでいい』って。『お前が何かアクションするならリアクションの必要もある』とも言ったよな?

そういうことはさあ、せめてふたりきりの時にこっそり勧めるとかにすべきだろ?それなのにナユタさんの目の前でこんな話しちまったら、もう話す以外の選択肢ねえじゃねえかよ!」


 ユウから少しだけ、怯えの感情。

 それをはるかに上回る後悔の感情。

 多分、俺が怒るなんて思ってもみなかったんだろうな。まあ、普段から努めて怒らないようにしてたんだから無理もない。

 でも、今後のためにもここはきっちりケジメつけておかないと。


「ま、桝田さん、そんなに怒らないで……。

私、その、聞かなくて大丈夫ですから……」

「その、ごめんなさい。私、マスターのお気持ちも考えずに勝手なことを言ってしまいました……。

ただ、その……アフェクトス注入の時の私の部屋でのお話を、ナユタさんにも聞かれていたかも知れないと思ったので……」


 あーまあ、あの時はそれも考えてだいぶオブラートに隠して話したつもりだったんだが。

 まあ、思わせぶりな内容だったかもなあ。


--てかさ、踏ん切りの付け所なんじゃない、これ?


「ナユタさん、あの時の会話、モニタリングしてました?」


「えっ、ええと、まあ……はい。

他に作業しながらだったんで、所々聞いてませんでしたけど、一応……」


 うん、この感情の反応は全部聞いてたな。


「あっでも、皆さんの会話を全部が全部聞いてるわけではありませんから!私がモニタリングしてるのは、主に巡回とアフェクトス注入と記憶の開放と、あとシミュレーションバトルくらいですので!リビングやプライベートエリアではちゃんと切ってますから!」


 いや当たり前でしょ。そんな何でもかんでも聞き耳立てられてたら息が詰まるし、プライベートもへったくれもなくなるし。


「でもどうせ、その瞬間は聞いてなくても音声データとかでアーカイブしてるんでしょ?」


「それは…………まあ、はい。そう、ですね……」


 聞いてなくても絶対録音してるはず、と思ってカマかけてみたら、渋々ながらも彼女は認めた。

 そりゃそうだよな、組織の統制って意味でも所属アイドルの管理って意味でも、パレス内のことは会話から行動から全部把握しておいて然るべきだもんな。特にMUSEUM(うち)は単なる芸能事務所じゃなくて政府の秘密組織、魔防隊の外郭機関なんだから。

 だから逆に言えば、ナユタさんに隠し通すのも無理があった、ということ。いつバレるか時間の問題で、それがたまたま、ユウの一言がきっかけになってしまったというだけのこと。


 しょうがない、覚悟決めるか。


「……まあ、もうこうなったからには仕方ない。ナユタさんにも話しますよ。

ただ、そのためには所長の了承も得ないと。ナユタさんに打ち明けないようにするのってあの人も了承したことなんで」

「それはまあ、そうですね……」

「えっ、そうだったんですか?」

「俺が所長にだけ話したいって提案して、所長もそれで了承してくれたからナユタさんは知らないままだったんだよ。——だから、今から行って了承取りましょうか」






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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