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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第九幕:リーダーたちの決意

元々予定していた第九幕ですが、4000字をオーバーしてしまったので分割しました。なので第九幕と第十幕はそれぞれ約2000字程度と短めになります。

基本的に1話あたり約3000字を目安にしていて、普段からそれを大きくオーバーしてしまいがちなので短く感じるかも知れませんが、ご理解のほど宜しくお願いいたします。




「マスター。話があるのだけれど」


 指令室を再び退去してリビングに戻った所で、レイから声をかけられた。

 見ると彼女だけではなく、リンも、ユウも揃っていた。


「みんなで話し合ったのだけれど。私たちの記憶、今から少しだけでも開放出来ないかしら」

「……今からか?」

「はい。リーパーのあの強さ、今のままでは対抗する事が難しいと感じました。私たちの記憶を取り戻すことで、少しでもMUSEとしての強さを増せる可能性があるのなら、私たちはそれに賭けたいんです」

「というか、いい加減待ちくたびれたわ。出すもん出してスッキリした方が心置きなく戦えるし。マスター、いいでしょ?」


 おそらく3人の念頭にあるのは、記憶を取り戻して見違えるように自信と力強さを増したマイの姿なのだろう。あれほど自分に自信がなくて弱々しかったマイが、記憶を取り戻したことで人が変わったように頼もしくなったのだから、無理もない。


「それは構わんし、俺だって記憶を取り戻す事でみんなの力になるのならそれが一番だとは思うけど。でも、どんな記憶なのか分からんし、逆にショックを受けて戦うどころではなくなってしまうかも知れんよ?

その懸念があったからリンについてはライブまで見送らせてもらったし、ライブ後に今回のミッションの話を聞いて、一段落するまでさらに延期するつもりだったんだ」

「心配しないでマスター。私たちはきっと乗り越えて、さらに強くなってみせるわ。貴方や所長の期待に応えなくてはならないのだもの」

「私たちだけの問題ではありません。私たちにはマイさんやハルちゃん、サキちゃんや他の皆さんを守って導いていく責任もあります。強くならなくてはならないんです」

「そうそう。それに、今『記憶の鍵』を持っているのはアタシたちだけよね?それってつまり、記憶の開放で強化できる可能性があるのはアタシたちしかいない、って事なわけでしょ?」


…どうやら、3人の決意は固そうだね。


「分かった。じゃあ誰から行こうか。

待たせてるリンから、するか?」

「ええ、私はそれで構わないわよ」

「はい、私も大丈夫です」


「えっ、ふ、ふたりがそう言うなら、アタシは……別に構わないけど……」


 リン、自分からって言われて急に尻込みしたな。


「ん。じゃあ、どこでする?部屋に行くか、それともシミュレーションルームか」

「そ、それは……」


「まあ、シミュレーションルームでやるって言っても、空いてなきゃ出来ないけどな」

「そ、そうだよね!

……じ、じゃあ、アタシの部屋……来る?」


 やっぱり俺を部屋に上げるのは抵抗感ありそうだな。もう1回入ってるし、そんな恥ずかしがらなくてもいいと思うんだけどな。


--兄貴、相変わらず解ってないんだ……


「ん、じゃあそうしようか。

レイとユウは少し待っててくれるか?」

「ええ、大丈夫よ。私たちも自分の部屋で待っているわね」

「はい、ごゆっくり」


…いや、『ごゆっくり』はなんか違うと思うなあ。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 リンの部屋に入れてもらい、すぐに『記憶の鍵』を受け取った。


「ナユタさん、聞こえますか?

今からリンの『迷宮』を開こうかと思うんですけど」


『桝田さん、リンちゃんの鍵を使いますか?』


 ナユタさんが応答するまでしばらくかかった。


「はい。それで、モニタリングをお願いしたいんですけど、今忙しかったですかね?」

『いえ、大丈夫ですよ。シミュレーションルームの方に移動しますので、少しお待ち下さい』


 あ、やっぱり他の仕事してたな、これ。

 ていうかシミュレーションルーム空いてたのか。


『お待たせしました。準備出来ましたので、いつでも大丈夫ですよ』

「ありがとうございます。実はリンのあと、レイとユウのも開く予定なんで、そこまでお願いしてて大丈夫ですかね?」

『えっ3人とも開くんですか?……私は大丈夫ですけど、桝田さんの方は大丈夫ですか?明日もパンデモニウムに侵攻するって、分かってますよね?』

「ええまあ、3人とももう鍵はあるんで、そこまで負担にはならないと思います。それにこれは、その明日のミッションのために少しでも強化の可能性があるなら、っていう3人の希望なんです」

『そうですか……分かりました。ただ、無理はしないで下さいね?』

「ありがとうございます。じゃあ始めます」


 通信を切って、リンに顔を向けた。


「じゃあ、やろうか」

「う、うん。お願い」


 彼女の返事を聞いてから、クッションに腰を下ろして待っていた彼女の『霊核(コア)』の鍵穴に、『記憶の鍵』を挿し込んだ。



 3度目ともなると、精神世界にもだいぶ見慣れてくる。

 というか、よく見たらシミュレーションバトルで開く“舞台(スケーナ)”にもちょっと似てる気がするな。


『リンちゃんの迷宮、開きました。マスターの存在証明も正常です。一緒にいるのは、ユウちゃんとレイちゃんですね?』


 無表情のまま立ち尽くす虹色の瞳のリンの左右には、もうレイとユウが控えていた。

 リンが本当に頼りにしているのはやはりデビューからずっと苦楽を共にしてきたリーダーふたりだった、ということなんだろう。


 戦闘指示プログラムを立ち上げる。行く手に現れた“敵”の姿を確認して、戦闘衣装(ドレス)を指定して戦闘準備を終える。

 リンが右手を差し出す。その掌の上に浮かぶ鍵を受け取って、彼女の『霊核(コア)』に挿し込んだ。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は20日です。

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