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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿—パンデモニウム—突入】
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第二幕:終わりなき戦闘

 新宿駅の西側は旧都庁の方角だ。

 あの時見た、異様な光景が脳裏に蘇る。

 あれは……なんというか、魔王の棲む城のようなおぞましさだった。忘れようとしても忘れられるものじゃない。


「すごく、嫌な、気分です……」


 廃墟と化した新宿の街を、比較的通りやすく、瓦礫の少ない道を選んで探索を進める。隣を歩くハクが、心の底から嫌そうに、ポツリと呟いた。


「……まるでゴーストタウンですね。こんなに広いのに、誰もこの異変に気付いていないとは……」

「これだけの破壊と侵食……ヤベェ感じがヒシヒシと伝わってくるぜ!」

「お前ホント楽しそうだなアキ」


ピピッ。


『それだけではないようです。周囲に生体反応が多数検出されています』

「えっ?オルクスですか!?」

『……いえ。これは人間(・・)の反応です』


 通信越しにナユタさんが言う。

 生体反応?まさか、生きている人間が、いる?


 ギョッとして周囲をよく見回すと、確かに、転がっている瓦礫や朽ち果てた車の影に、なにやら動くものがある。


 人間だった。

 男も女も、老人も子供も、いる。

 でも、それは異様な光景だった。


 誰も彼もが視点の定まらない虚ろな目で、だらしなく開いた口からよだれを垂らして、這いずり回っている。正気を保っていそうな人間なんてひとりも見あたらなかった。


「こ、こんな所に、人が!?」


 正気を失い這いずり回る人々は、服装も比較的ちゃんとしている。あの日からずっとここで狂っているとは到底思えない。だとすれば、彼らはつい最近、ここに迷い込んだということになる。

 でも、何故?『新宿』は隔離されているんじゃないのか!?


「見たところ、皆さん、正気を失っている、みたいです……」

「どこかへ向かっているようにも見えますが、彼らは一体どこへ……?」

「ニンゲンなんざどうでもいい。敵探そうぜ敵!」


 おいこらどうでもいいとか言うな。


『生体反応の様子からして、どこかへ向かっているような……』


 ナユタさんの声が不意に途切れる。

 ひっ、という息を呑む音が、聞こえた。


『ぜ、前方に巨大な反応が……!』

「え、何かありましたか!?」

『なに、これ……?』


 ナユタさんの怯え方が尋常ではなかった。

 よほどヤバい代物でも見つけたのだろう。

 記憶の中のそういうモノの心当たりは……ひとつしかない。


『これ…………これは、塔……?』


 やはり、ナユタさんは旧都庁を見つけたようだ。位置的にもうそろそろ、こちらからも視認できるはずだ。

 ちなみに現都庁は千代田区にある。俺が東京国際フォーラムとして記憶している、船を模した流線型の建物がそれだ。どんな世界改変が行われたのか全然分からんけど、3年前からみんなあの建物を都庁として認識していて驚いたものだ。


 瓦礫と化しているビルの角を回ると、そこに見えたのは、あの日見た異様な姿の旧都庁。

 あの日のあのおぞましい姿のまま、変わらずそこに、それは聳えていた。


『なんという、ことだ……』


 所長も映像を確認したようだ。

 今回、俺とリーダー3人のインカムは映像信号も送れるものに取り替えられている。だから俺たちが見たものは、そのままリアルタイムで指令室にも届いているはずだ。


『ああ……そうか、そういうことか。ようやく……辿り着いたのだな……』


 インカム越しに、所長の興奮が伝わってくるようだ。やはり魔防隊は、所長は、この旧都庁にたどり着くことが目的だったんだ。


『各員に告ぐ。そこに見えるのは敵の本拠地に間違いない。一旦合流を図れ。ユニットCは待機、ユニットA、Bは西地区のユニットCの元へ向かえ。——合流ののち、警戒しつつ先に進め』

『ユニットA、了解しました!直ちに西地区へ急行します!』

『ユニットB、了解したわ。こちらも西地区に移動するわ!』


 所長の指示に、ユウもレイも応答する。


『ユニットC、“マザー”よりオルクス反応検出!反応パターンから新種と推測されます!気をつけて下さい!』


 ナユタさんの声がやや上擦っている。このタイミングで今まで遭遇したことのないオルクス反応が出れば、まあ無理もないだろう。

 その声に、ミオとアキの感情が沸騰する。


「……始めるわよ。ハク、“舞台(スケーナ)”展開準備!」

「っしゃ新型キタ————!お待ちかねのバトルの時間だぜ!」

「マスター、指示を、ください」

「分かった。ここで迎え撃つぞ!」




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 さすがに敵地・新宿だけはある。新型を含めて10体ほど戦うハメになった。最初に発見したのは3体だけだったが、後から後から湧いてきて、結果的に連続戦闘になった。


「オッラアァ!雑魚ども、くたばりやがれええ!」

「——次!」

「6時の方向、12体目。8時の方向、13体目。後続接近中」

「退くぞ、ミオ!」

「しかし、まだ敵が残って——!」

「ここは敵の本拠地なんだからキリがないぞ!一度に全部倒せる訳もないし、先にこっちの体力が尽きちまう!だから退くんだ!」

「くっ……!分かりました……」

「アキも!メインイベントはあの“塔”の中だ!だから今はそこまでにしておけ!」

「…………チッ。確かに、オードブルばっか食ってもしゃあねえか」

「戦略的に、撤退します……」


 本当はまだ何体か残ってはいたが、敵の攻撃が多少緩んだところで3人に指示を出して、戦場を離脱した。

 ハクに“舞台(スケーナ)”を解除させ、ダッシュで離脱しビルをひとつ回り込んで敵の目を撒く。幸い、動きの遅い個体ばかりだったので振り切る事ができた。付近に敵反応がないことをナユタさんに確認してから、腰を降ろして一息つく。

 今回は旧都庁に乗り込み調査することが主目的になる。そのためには、その手前で釘付けにされるわけにはいかなかった。


『戦闘、お疲れ様でした。マスターの判断は的確だったと思います。1ユニットだけでは、あれ以上は危険でした』

「突入に備えてひと息入れます。ナユタさん、周囲の警戒を頼みます」

『了解です。安心して休んで下さいね』


「……新型という話でしたが、やや肩すかしでしたね……」


 ポツリと、ミオが呟いた。

 確かに新型は出るには出たものの、個体強度はそれほどでもなかった。だから彼女には手応えが感じられなかったようだ。俺自身も、あの個体は3年前にも見憶えがあったし、マイの“迷宮”でも出現した個体だったので、少し拍子抜けしたのは事実だ。


「オレはまあまあ満足だな。次のアプデに期待ってとこか」


 アキは満更でもなさそうだ。普段は3、4体しか相手にしないところを10体も戦えたから、それだけでも満足なんだろう。

 ってかゲームじゃないんだから、アプデとか言うな。


「マスター。大丈夫、ですか?」

「ああ、ありがとうハク。大丈夫だよ。——にしても、やっぱりみんな強いな。あれだけの数を相手にしてほぼ無傷ってのは」

「当然です。私たちは戦闘人形(プーグナ・フィギュラ)、MUSEなのですから。それに、とりわけこの3人は戦闘特化です。あの程度の敵には遅れは取りません」


 ミオが、さも当然と言わんばかりに胸を張る。アキとは普段ほとんど会話もなかったはずだけど、彼女のことは、こと戦闘においては頼もしい仲間として信頼しているようだ。


「……まだ、終わりじゃない、です」

「見つかったか……」


『マスター、オルクス反応です!……4、5、さらに増加! ——もう、次から次へと!』

「いいぜいいぜ、おかわり上等だ!」

「ナユタさん、落ち着いて。敵の本拠地なんだから仕方ないですよ。それより、包囲の薄い方向を教えて下さい」

『はっはい、サーチします!——3時の方向!そちらにオルクス反応の全くない場所が……!』

「了解、目指します!」


 そう言いながら立ち上がる。その時には3人ともすでに、臨戦態勢に入っている。


「分かってると思うけど、包囲を突破する事が第一だ。他のユニットと合流するまで無茶はしないこと。いいね?」

「分かっています。マスターの命令は絶対です」

「ちっ、わあったよ。メインディッシュをいただくまでは腹八分にしてやらあ」

「敵、発見しました」


 ハクが“舞台(スケーナ)”を張ったのが、戦闘開始の合図になった。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は10日です。

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