表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿ーパンデモニウムー前夜】
136/185

第十六幕:ハクとネコ(1)

 レイの部屋を出てから事務所に降りて、事務仕事を片付けたりブログチェックやSNSの更新をしたりして、夕方になって様子を見に一旦リビングに上がった。一応これでも寮の責任者だからね。彼女たちもある程度自立出来てる年頃だけど、放置していいわけじゃないし。


「……あれ、他のみんなは?」


 だけどリビングで寛いでいたのはハルとリン、それにレイだけ。

 アキは寮にいる時は基本的に部屋にこもりきりだし、サキも割とひとりで過ごすのを好むから部屋にいることが多い。

 ハクはちょっと目を離すとすぐに姿が見えなくなるけど、そういう時は大抵中庭で昼寝してたりシミュレーターを回してたり。まあ(マスター)の指示にはきちんと従ってくれるから、今日はもうシミュレーションルームには行かないだろう。でも今日は雨だし、中庭や裏の運動公園には行ってないはずだけど、どこ行ったかな。

 ミオとユウは、まだシミュレーションルームから戻ってないのか。


「アキちゃんとサキちゃんはお部屋にいるよー」

「ミオとユウはまだシミュレーションルームから戻っていないわね。あとマイが呼び出されたって言って降りて行ったわ」


 あー、マイはまたミオに捕まっちゃったのか。最近なんかマイのことを鍛えようとしてるもんなミオは。


「……ハクは?」

「さあ、分かんないわ。あの子ホントに神出鬼没だからさあ、いっつも気付いたら居なくなってるのよね」


 うーん、これは最悪、彼女にGPSでも持たせといた方がいいかもなあ。


「まあでも、さすがにそのまま消えちゃったりはしないからね。毎回いつの間にかフラッと戻ってきてるし、心配ないでしょ」


 責任者(おれ)はそういう訳にはいかないんだよリン……。


 まあでも、他に当てがないのでシミュレーションルームに降りてみた。訓練を上がれとは言ってあるし指示は聞く子だけど、ハクが俺の指示とミオの指示のどちらを優先するかはなんとも言えないとこだから、もしかすると舞い戻ってるかも知れない。

 でもそうしてやってきたシミュレーションルームにいたのは、ミオとユウとマイだけだった。うーんハクは居なかったかあ。



「あっ、マスター!お疲れさまです!」

「あら、マスター。わたしたちの様子見ですか?」

「……そんなに信用ありませんか……」


 例によってマイに目ざとく見つかり、それをきっかけにユウとミオも俺を見る。ちょうどバトルの区切りがついたとこのようで、補助(サポート)のユウがサッとコントロールデスクに近付きプログラムを止めた。

 いや違うからねミオ?君らを信じてないとかそういうことじゃないから!


「みんな、ハクを見なかった?」

「えっ、見てないですけど……」

「彼女は皆さんと一緒に上に戻ってから、こちらには降りてきていませんよ?」

「ハクでしたら、訓練時間以外であれば大抵中庭か裏の運動公園で昼寝していますが」


 うん、だから今日外雨降ってるだろミオ。

 とはいえ、こうなるともうハクが居そうなのは屋上か屋外しかない。


「そっか、まあもう少し探してみるよ。みんな、邪魔して悪かったね」

「いえ、大丈夫です。ちょうど休憩しようと思っていたところなので」

「ちょっ、ユウ、私まだ休憩するなんて」

「マイさん、あちらの休憩室の冷蔵庫からドリンクを持ってきてくださいますか?」

「あっ、はい!分かりました!」

「…………」


 いやいやユウさんや。そりゃあからさま過ぎますって。

 まあいいけどさ、とりあえず今はハクの捜索を優先しとこうかな。


「休憩入れるんなら問題ないよ。時間あるからって根詰めすぎずに、適度にインターバル入れつつ無理なく頑張りなよ」

「はい、分かっています」


 にこやかに返事するユウと、あからさまに不服そうなミオ。マイはそんなふたりを見て、どっちに付くか迷ってオロオロしている。

 そんな3人を見て、ハクを見つけたら戻ってこようと決めた。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 一応中庭にも出てみたけど、やっぱりハクの姿はなかった。この中庭も隅に物置があったり木陰や植え込みがあったりしてそれなりに死角があるから、傘さしてそういう場所も覗いてみたけど結局見つからなかった。

 てか物置の裏と建屋の壁の間が意外とポッカリと空間が開けてて、ちょっとした隠れ場所みたいな感じになっていた。そこにも当然彼女はいなかったんだけど、なんだろこの空間、物置の増設用スペースとか?

 その後、屋上にも上がってみたけど鍵かかったままだった。あー、そういや毎日開け閉めするのが面倒くさくて閉めっぱなしだったわ。


 となると、まさかとは思うけど公園かあ。


 一旦リビングに戻り、ハクを探しに外出するとレイに伝えて、何かあったらまだ所長がいるはずだからと言い置いてから裏の運動公園まで足を延ばしてみた。

 パレスの裏手、裏手と言っても裏にはパレスの敷地でもある小さな森があるからその隣になるんだけど、小さいながらもしっかりと造られた運動公園がある。一通りのアスレチック施設のほか1周2kmぐらいあるジョギングコースと休憩のできる四阿(あずまや)と、芝生が敷かれベンチが置かれた広場や管理棟に併設された自販機コーナーや小さいながらも駐車場まであって、休みの日には親子連れとかもたまに来ている。要は地域の憩いの場になっているわけだ。

 そしてこの公園は、やたら野良猫が多い。別に数えてないけど、来るたびに違う猫を見かける気がする。どの猫も人を怖がらないので、遊びに来た家族連れの子供とかがよくじゃれていたりする。


 借りてるレッスン場のビルの前を通り過ぎ、少し歩いた先にある、公園管理棟と駐車場が併設されてる入場口から公園敷地内に足を踏み入れる。

 そこからざっと見渡して見える、芝生とベンチの一角にもハクはいなかった。いつも昼寝してるのはこの芝生なんだけど。


「やっぱり居ないっぽいな……」


…まあ雨だもんね。


 その時、一匹のネコがすぐそこの茂みから顔を出した。茶色の毛並みの仔だ。

 へー、この雨でも猫って外に出るんだ?普通は濡れるのを嫌がってどっかに避難してるもんだと思ってたけどな。

 茶猫はキョロキョロと何かを探し、そのままこちらに近付いてきたかと思うと、ひと声鳴いて俺を見上げた。それからタタタッと数歩離れて、こちらを振り返る。


…えっもしかして、この仔ハクの居場所知ってる?


 試しに追いかけてみる。するとこちらが追いかけるのと同じだけ進んで、促すようにまた振り返る。

 え、もしかして本当に?


 茶猫は芝生広場からやや離れた四阿のところまで俺を案内すると、そこからダッと駆け出した。

 その四阿に、ハクがひとりポツンと座っていた。


--マジか。本当に案内してくれたんだ。


「ハク」


 呼びかけると反応して、彼女が顔を上げた。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は10日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おかげ様で拙著『公女が死んだ、その後のこと』が好評発売中です!

『公女が死んだ、その後のこと』
『公女が死んだ、その後のこと』

画像クリックでレジーナブックスの新刊案内(本書特設ページ)に遷移します。
ISBN:978-4-434-35030-6
発売日:2025年1月31日
発行日:2025年2月5日
定価:税込み1430円(税抜き1300円)
※電子書籍も同額


アルファポリスのサイト&アプリにてレンタル購読、およびピッコマ様にて話読み(短く区切った短話ごとに購入できる電書システム)も好評稼働中!


今回の書籍化は前半部分(転生したアナスタシアがマケダニア王国に出発するまで)で、売り上げ次第で本編の残りも書籍化されます!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ