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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿ーパンデモニウムー前夜】
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第十一幕:午後の巡回

 昼食のあと、しばらく腹休めをしてから午後の巡回に出る。

 メンバーは朝決めた通り、ユウ、リン、ハル、アキの4人。

 残念ながら朝に比べて雨が強くなっている感があり、アキが色々とゴネていたけど、所長の名前を出したら大人しくなった。


「まあこんな雨の日に外出たくないのは分かるけどさ、仕事だろ仕事。給料貰ってる分は働かんとな」

「バカ言えお前、どれだけサボりつつ給料くすねる(・・・・)かが」

「いいから行くぞ。早く出ないとまた所長に怒られるからな?」


 ていうか、それ以上言わせてたまるかバカやろう。


「ったくよォ、なんで今日に限って来てやがんだよ……」



 午後はいつも通り渋谷駅へ向かい、駅を出てから首都高の高架下を神泉方面へ歩く。雨は強いが風はないので、首都高の高架下ならあまり濡れないんじゃないか……とか思ったわけだが、その目論見は甘かった。首都高よりも下の車道の方が道幅が広かったため歩道の上は普通に空だったし、結局雨の中傘を差したまま歩く羽目になったわけだ。

 午前中と同じく車通りは多いが、人通りは少ない。さすがに渋谷駅周辺はそれでもごった返す勢いで、駅を出た所で一旦取り囲まれたが、駅から離れるとそれも落ち着く。ただ、それでも首都高の高架下は大通りなので、午前中よりはファンが寄ってくる。そういうのにまたリンがいちいち応対するもんだから、なかなか先に進まない。


「リンさんはいつも通りの神対応ですね」

「うん!リンちゃんっていっつもすごいよね!」

「アタシらってファンで持ってるようなものだからね。せっかく応援してくれてるのに疎かには出来ないじゃない?」

「……いいんだよああいうのは放置プレイで」

「アンタのソレを喜んでるのはアンタのファンだけだっつの!」


「どうでもいいけど、みんなのファンってそれぞれ全然毛色が違うのな。なんかこう、綺麗に住み分けてるっていうか、見事にニーズが分かれてるっていうか」

「ん、まあ、最初から狙ってた訳じゃないんだけどね。気付いたらこうなってたっていうか。

⸺ホラ、アタシたち自身がそれぞれ全然キャラが違うじゃない?」

「チームとしては明確なコンセプトがありますが、私たち個人個人で特定のコンセプトを打ち出しているのはアキさんぐらいじゃないでしょうか」

「あーまあ、そう言われればそうだな」


 ユウの言う通り、チームにはそれぞれコンセプトがある。

 レフトサイドは正統派アイドルユニット。

 ライトサイドは実力派シンガーユニット。

 アイドルグループとしてはオーソドックスな考え方だと思うけど、Muse!はメンバー個人だけでなくユニットとして、またグループ全体としてのコンセプトも含めて個別に売りにしているわけだ。

 今後、ミオとハクのデビューが決まれば3サイド体制になるから、そうなれば各サイドのコンセプトもまた新しくなるだろう。


…いやまあ、アキが実力派シンガーか?って言われれば返答に窮するんだけどさ。


「ああん?なんか文句ありそうな顔してんな?」

「……いや?気のせいじゃないか?」


「……チッ。まあ言いてえことは分かってっけどよ。オレぁ別に顔もカラダもウリじゃねぇし、歌もダンスも才能なんてありゃしねぇしよ。だったらもう個性で売るしかねえだろうがよ」

「……おお、意外とちゃんと考えてたんだな」


「……オメーに言われたらなんかムカつくなあオイ」


 まあfiguraになったのが先だし、アキがいくら向いてなくともアイドルやる以外に選択肢なかっただろうしな。アイドルやる前提でだいぶ試行錯誤したんだろうな。


「でもまあ、一番問題なのはその性格かなあ。根本的にアイドルに向いてない気がするよな」

「……だからいちいち言うんじゃねぇ!」

「普段から自分でもそう言ってるクセに、人に言われたらムカつくって。どんだけワガママなのよアンタ」

「……ハッ。労せずして客が寄ってくるワガママボディに言われたかねーわ」

「だ、誰がワガママボディよ!」


 いや、そう言いながらユウを見るんじゃないよリン。その視線には全面同意だが、そういう事じゃねえだろ。


「えっと。私が、どうかしましたか?」

「ん~とねえ、ユウちゃんがボンキュッボンだ、って話じゃない?」


…うわあ、ハル言っちゃうんだそれ。


「わ、私、そんなに太ってなんかいません!」

「いや、アキが言ってるのはそっちの意味じゃなくて」

「……まあ、ユウは胸とお尻に栄養が行くタイプだからねえ。羨ましいというか何というか……」

「いや、それを言うならリンだって負けてねえだろ」

「アタシは!お腹に!付いちゃうの!」


「ククッ。気付いてるかマスター?リンとハクのスリーサイズがほぼ同じってことによ」

「え、マジで!?」

「き、気にしてるんだから言うなー!」


 うげ、マジだ。

 タブレットでパーソナルデータを確認すると、リンのスリーサイズは上から84-56-83。一方のハクは83-56-82。ハクの方がバストもヒップもやや細いが、見た目的にはほぼ変わらない。それでいてリンの身長は148cmでハクは157cmある。そうするとどうしても、リンの方は寸詰まりの太い体型に見えてしまうし、ハクの方がスラッとバランスの取れた美しいスタイルに見えてしまう。

 なるほどなあ、リンのコンプレックスはそこか。そりゃ躍起になってダイエットしようとするわけだわ。


「でもそうは言うけどさ、リンだっていいスタイルしてると思うぞ?身長の割に細いし、体重も軽いし」


 ちょっとフォローしてやるつもりでそう言ったら、リンは途端に頬を染めてモジモジし始めた。


「そっ、そんなこと、ないし……」

「ちょっとホメられりゃすぐそうやってデレる。だからチョロいって言われるんだよオメーはよ」

「うっうるさい!デレてないし!」

「でも、本当にリンさんはスタイルいいと思いますよ?」

「……ウチらの中に、アタシより細いのが何人いると思ってんのよ?」


 まあ、それを言われるとな。ハルもアキもほっそりしてるしな。


「とにかく!アタシは自分が自分に納得出来ないからダイエットしてるの!アイドルってのは『キレイ』と『カワイイ』を目指すものなの!」

「まあ、現状に満足せずに理想を目指すのは良いことだけどな。でも、やり過ぎたらかえって良くない、ってこともあるからな?」

「わ、分かってるわよ、そんなこと……!」


 ていうか、そもそもこの子たち体重変動とかあるのかな?生命活動の(・・・・・)実態はない(・・・・・)って所長言ってたよね?


…そういうのは思ってても口には出しちゃダメだからね……?






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は15日です。



「ワガママボディ」はユウが否定したとおり太った身体の意味ですが、ここではアキは「ナイスバディ」の暗喩で使っています。

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