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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿ーパンデモニウムー前夜】
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第七幕:午前中の巡回バトル(1)

 少し大きな通りに出たものの、雨のせいか車は多いが人通りはまばらで、すれ違う通行人もほとんどいない。おかげでさほど気兼ねなくMUSEとしての話題も続けられている。

 ライブ翌日ということで行く先々でファンに取り囲まれる事態も予想されたけれど、今のところはそういう事もない。これなら、マイを連れてきてもよかったかも。


「……ということは、つまり、マスターを巻き込まないように敢えてマスターを“舞台(スケーナ)”に入れない、という選択肢もあるということかしら」

「レイさん、それこそ意味ないんじゃないですか?マスター無しで戦闘するなんて、マスターが来る前の状態に戻っちゃいますし。第一、それができるならマスターの存在意義がほぼなくなってしまいますよ」

「まあ確かに、スケーナを張るときに除外されちゃうと、戦闘指揮もへったくれもなくなるな」


 ていうかやめてサキ!それガチで俺の存在意義がピンチだから!


「マスターと私たちをスケーナで分断するなんて有り得ないわ。第一、万が一スケーナから漏らしたオルクスが残っていたらマスターを守れなくなるもの」


『こちらとしてもそういう事態は想定していない。君たちに下した命令は、あくまでも“マスターの指揮のもと戦闘を行え”だ。それを忘れないでくれたまえ』

「もちろん了解しているわ所長。今はあくまでも可能性の話をしているだけであって、実際やるかどうかはまた別の話よ」

『分かっているならいい。マスターが付くようになってから、君たちのバトルスコアも有為に向上が確認されている。今さらマスター抜きの状態に戻すことは出来ない。それをよく心得ておいてくれ』


「……だそうですよ、マスター。良かったですね」

「良かったですね、って言われてもな。

まあ、それが良いかどうかはさておくとしても、スコアが上がったって事はそれだけ君らが戦闘で負傷したり死んだりする確率が減ってるって事だから、それは単純に嬉しいけどな」

「ふふ、そう言って貰えるのは嬉しいことね」

「私たちは、これからもずっと貴方の指示に従い、その期待に応えて戦うのみです。マスター、見ていて下さい。そして今後もご指導をよろしくお願いします」

「まあそんなに畏まらなくてもいいよミオ。それに、俺が常に正しいとも限らないしね。

もしも間違ってると思ったら、どんどん指摘してくれていいから」

「分かりました。それがご命令とあらば」


…うん、だからね?

いちいち堅いんだよなあミオってば。


 まあ、そこがミオらしい所でもあるけどな。

 ってかこの子いつの間にこんなに俺に心酔したんだっけ?


「ところで、今日は誰がスケーナ張る?」

「そうね、このメンバーなら誰が張っても構わないと思うわ」

「オーダーに、従います」


「じゃあ、たまにはミオ、張ってみるか?」

「わ、私ですか!?」

「あら、ミオのスケーナで戦うのは久しぶりだわ。昔、ミオがfiguraになってすぐの頃は、よくこの子のスケーナで戦ったものよ」

「そっ、その頃の事をマスターに話すのは止めて、レイ!」

「あら、どうして?恥ずかしいのかしら?」


 慌てるミオを見てレイが楽しそうに笑う。もしかしてレイって割とイタズラ好きなのか?


「そっ、そんなわけ、ないじゃない!」

「まあまあ。俺に聞かせたくないんなら無理に教えてくれなくてもいいよ。ミオが嫌なら、誰に張ってもらおうか」

「いっ、いえその、別に嫌なわけでは……」

「じゃあミオ、よろしくな」

「くっ……分かりました……」


「敢えて引くと見せかけつつ言葉巧みに頷かせるとは。マスター、案外策士ですね……」

「サキ程じゃねぇよ。ミオのスケーナを見てみたいってのも事実だしな。

で、サキは一旦外れて俺と一緒に見ててもらうからね?」

「もちろん分かってますよ。ていうか、先輩がたの間に割って入れる実力はありませんから、私」


 サキ、自分が策士だって部分は否定しないのな。


「しっかしそれにしても、この雨は本当に嫌になるな」


 今日って7月24日だよな。たしか梅雨は22日に明けたとみられる、ってニュースで言ってたはずなんだけど、明けてからこれだけ降るってどうなんだ。梅雨の間はほとんど降らなかったのに。

 普通、梅雨が明けたらカラッと暑い、本格的な夏になるはずじゃないのか。


「全くですよ。やれやれです」

「サキはまだいいよ。午前巡回終われば後はオフなんだから。俺なんて午後も巡回だからな?」

「残念だけど、それは代わってあげられないから諦めることね。それよりも、アキを連れ出すのに苦労するんじゃないかしら」

「……考えたら頭痛くなってきたわ……」

『私が居る以上、ワガママは許さんがね』


…あ、そうか。そういう意味では逆に今日は気が楽かも。



 しばらく歩き続けていると、昨日のライブでお世話になった道玄坂の複合文化施設が見えてきた。思ったより渋谷側まで歩いてきていたみたいだ。

 そういえば、今日は神泉付近に出現予測が出てるって話じゃなかったっけ。じゃあ渋谷方面に寄りすぎるとマズいのかな。


「所長。今、昨日のコンサートホールの辺りまで来てるんですけど、神泉方面に戻った方がいいですかね」

『君たちの現在位置はGPSで把握できている。“マザー”の出現予測も絶対ではないし、渋谷地区を重点的に巡回する方針に変わりはないから、それほど気にする必要はない。

ただ、もし神泉方面に出現したなら、場合によってはタクシーなどで急行してもらわなければならなくなるかも知れん』

「え、それってもしかして、自腹ですか?」

『ひとまず立て替えてもらう事になるから、余裕があれば領収書を切ってもらうといい。そうすれば経費で落とせる』


…オルクスが出てる時に、そんな余裕ある訳ないじゃんか……。

細かいお札、財布にあったっけ?万札しかなかったらちょっと嫌だな……。


『待て。どうやらその必要はなさそうだぞ』

「えっ?」

『その会場前だ。たった今、3体ほど出現した』

「あ、了解。迎撃します!」

「行くわよみんな!」


 言いながら、ミオはもう走り出している。

 ハクもレイもすかさず続く。


「サキ、行くぞ!」

「はっ、はい!」


 少し遅れて、俺とサキも駆け出した。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。



お忘れかと思いますが、作中ではまだ2023年の7月24日、物語の冒頭から約1ヶ月しか経っていません(爆)。5日ごと更新なので進みが遅い……!(汗)

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