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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【新宿伏魔殿ーパンデモニウムー前夜】
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第四幕:護身銃の試射バトル(1)

「くれぐれも、あの子たちを頼む。君のその経験と知識とで、あの子たちを助けて、導いてやってくれないか」


 (くろつち)所長は心の底から彼女たちを案じていた。

 それが、少し意外だった。

 彼女たちはfigura。あくまでもオルクスに対抗するための『兵器』であって人間ではない、替えが利くモノ。そういう建前のはずだ。

 俺がどれだけ違うと言い張ろうとも、厳然たる事実としてその扱いは変わらないはずだと思っていたのに。


 なのにこの人は、その感情は、あの子たちを失いたくないと願っているようにしか見えなかった。

 figuraをロストさせれば自分の失脚にも繋がりかねないとかそういった利己的な考え方ではなく、ただひたすら、大切な人を危険な目に遭わせなければならない、その辛さに耐えている。そういう風に見えた。


 この人はもっとドライで冷徹な、目的のためには手段を選ばないような、そんな人なんじゃないかと心の奥では考えていた。

 でも、そうではなかったみたいだ。

 それなら、応えない訳にはいかないな。


「まあ、任せてくれとか大きな事は言えません。何しろ俺はスペック的にはただの人間(・・・・・)でしかありませんから。

ただ、できうる最善は尽くさせてもらいます。俺だってあの子たちを失うのは、嫌だ」

「……ありがとう。そう言ってくれれば心強い。

本当に、頼んだぞ」


 所長の全身から、安堵の感情が溢れる。

 この人には本当に珍しいことだ。


「というか、このミッションに間に合わせるために護身銃やアンダーウエアの開発を急がせたんですよね?」

「まあ、そういう側面もある。普段の巡回任務とは訳が違うからな。

MUSEだけではなく、君にも無事に生還してもらわねばならん。だからくれぐれも、無理だけはするな。少しでも危険だと感じたら君の判断で退いてくれて構わない」


…ここまで言われたら、やらないわけにはいかないよね。


--目を背けてばかりもいられないし、やるしかないよ、兄貴。


「分かりました。⸺正式に発令するのは明日、ですね?」

「そうだ。だからそれまでは口外しないようにしてもらいたい。

なお明日以降のアイドル業務は全てキャンセルとし、こちらで処理をやっておく。君もうっかり新規の仕事など受けないようにしてくれ」

「了解です」


「話は以上だ。では早速、(ガン)の試射をしてもらうとしようか」

「あ、じゃあ、部屋に戻ってこのアンダー着てきます」

「ああ、その方がいいな。シミュレーターといえども戦闘には違いない」

「じゃあ、先にシミュレーションルーム行ってて下さい。何人か連れて行きますんで」

「分かった。よろしく頼む」


 そうして俺は、今度こそ所長室を退出したのだった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 所長に先にシミュレーションルームに降りてもらい、一旦部屋に戻ってアンダーを着替えた。なるほど、これは思ったより着心地いいな。

 ただ着合わせは、少し考えて白のロングTシャツにした。暑苦しいと言われるだろうけど、まあ仕方ない。


 部屋を出て、リビングに顔を出す。まだ8時半過ぎということもあり、みんな残っていた。


「あらマスター。所長室に行ったと思っていたのだけれど、今上から降りてきたわね?」

「うん、1回部屋に戻って着替えてきたからさ」

「……なんでわざわざ着替える必要があんだよ?」


 袖を少しまくってアンダーウエアを見せつつ、装備品を色々と支給されたことを全員に伝える。そしてマスター用護身銃の試射をやらないといけないので、何人かシミュレーションルームで模擬バトルをやって欲しいと話した。


「なんだ、それならアタシたち全員で行けばいいじゃない」

「そうだな、とりあえずリンは寝坊したから参加してもらおうか」

「あっ、いや、その、それは…………って関係ないでしょそれ!?」

「まあまあリンさん。とりあえず、みんなで行きましょうか」


 やいのやいのと言いつつ、結局全員がシミュレーションルームまでついて来る。所長はもう起動の準備を済ませて待っていた。


「なんだ、全員で来たのか。

まあいい。で、誰が出るんだ?」

「それなんですけどね、上手いこと敵をそらして俺のとこに流してもらわないといけないんで……」


 実はこれがなかなか難しい。普段の戦闘中はみんなと同じ“舞台(スケーナ)”の中にいるとはいえ、戦闘の邪魔になったり巻き添えを食らったりしないよう、余裕持って離れた位置にいるんだよね俺。

 戦闘の指揮そのものはタブレットの戦闘指示プログラムによって、戦う彼女たちに直接届けられるから、バトルのフィールド状況によっては彼女たちの有視界の中にいないことさえあるわけで。

 まあ、さすがに今回は試射が前提だし実際の戦闘とは違ってシミュレーションバトルなんだから、普段はあり得ないけど戦場のすぐそばに居るしかないか。


「でしたら、私たちリーダーでやりましょうか」

「……だいぶ器用な(メンドクサイ)こと要求されてると思うんだけど。ユウ、それ分かってる?」

「あら、難しいぶんやりがいもあると思わない?」


 リーダー3人のうち、ユウとレイは乗り気。リンはメンドクサイと言いつつもやる気はやる気っぽいな。


「……私はそういうの、面倒くさくてパスですね」

「ハルも、ちょっとよく分かんないかなあ。倒すだけなら簡単なんだけど」

「私もその、ちょっと難しそうなのは……」

「マスターに流してやるぐれえなら自分で倒すに決まってんだろ。その方が早え、つうかオレの獲物はオレのもんだ」

「マスターを、危険な目に遭わせる訳には、いきません……」

「私もハクに同感です。今回は武器の試射ということですから仕方ないかも知れませんが、そもそもマスターに武器を持たせて戦力に数えるのは本末転倒では?」


 それ以外の子たちは難色を示した。サキ、ハル、アキはまあいつも通りとして、ハクとミオからはなんか過保護の気配がするんだが?

 あとマイ。難しいことにチャレンジしないと、いつまでも難しいままだからな?


「ん。じゃあリーダー3人な」

「それがもっとも無難なようだね」


 所長がシミュレーターを起動する。それに合わせて俺も戦闘指示プログラムを立ち上げて、リーダー3人のドレスと武器を選択する。


「では、始めてくれ」


 そうしていよいよ、マスター用護身銃の試射バトルがスタートした。






いつもお読み頂きありがとうございます。

次回更新は10日です。

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