第二十一幕:開演前⸺ゲート討伐
「ハルさん、マイさん、もう開演まで時間がありません。サクッと瞬殺して下さい!」
「オッケー!やっちゃうよ!」
「はいっ!私たちが、やらなきゃ!」
検知から接敵するまで数分かかったため、ゲートはすでにオルクスを召喚してしまっていた。サキの“舞台”が捉えたオルクスはゲートを含めて4体、イビルアイ、リスナー、そしてスマッシャーとゲートだ。
幸いにも、ファンを襲い始める寸前でスケーナに閉じ込めることができたようだった。もう少し遅かったら間違いなく犠牲者が出ていただろう。
3人の戦闘衣装と武器を指定する。オルクスたちの出しているアフェクトス属性を確認し、瞬殺できるよう彼女たちの武器とドレスを有利属性で固めた。
「マイ、行きます!」
まずマイが手近なところにいたイビルアイに剣で斬りかかる。コイツはアフェクトスを溜めて瞳孔からレーザーみたいに撃ち出してくるから、距離を詰めて速攻で倒す彼女と相性がいい。
マイは危なげなく大目玉を斬り刻み、反撃も許さずに消滅させた。
「倒しました!」
「じゃあ次はハルの番だ!」
すかさずハルがハンマーを振りかざしてリスナーに襲いかかる。
リスナーは大きな耳のついた棒人間のような見た目で、見た感じはユーモラスだが超音波攻撃をはじめ厄介なスキルを多く持つので、これも時間をかけてしまうと面倒な相手だ。
「正義の鉄槌!いっぱぁ~つ!」
連続攻撃からリスナーの体を踏み台にして、ハルが大きく跳び上がる。そして巨大なハンマーを軸にするようにして空中で1回転し、そのまま反動を付けて今度は自分の身体を軸にして、リスナー目掛けてハンマーを振り下ろす。
リスナーはぺしゃんこに潰れて、消えた。
相変わらずハルは力任せというか、あのちっこい身体のどこにそんなパワーがあるんだか。
「いーい調子!」
そしてハルは全くバテる素振りも見せず、あっという間に次の敵に向かっていく。すかさずマイもそれに続く。
「強い反応あり。格上のようですね」
サキの声に反応して、ふたりとも立ち止まる。
そこにいたのは“スマッシャー”だ。見た目は小人だが、両腕だけが馬鹿みたいに筋肉質で肥大化した姿をしている。
確かにこの個体は、先の二体より個体強度が高そうだ。あの腕でまともにぶん殴られたら、彼女たちなんてひとたまりもなさそうだ。
「ふたりとも気をつけて!」
俺が言うまでもなく、ハルもマイも油断なく構えて指示を待っている。
「⸺まずはマイから!」
「はい、やります!」
マイが俺の声に反応して、果敢に斬りかかる。
手に持つ剣で連続で斬りつけ、大きく跳び上がって大上段から斬り下ろす。
「全力で行きます!はああああっ!」
マイの渾身の力を込めたその一撃は、だが、スマッシャーをふらつかせただけで倒しきるまではいかなかった。
「サキ、魔術を!」
「はい!」
すかさずサキにスキルで支援させたが、それでもトドメには至らなかった。
永遠に攻め続けるのは体力や技量の問題で不可能で、攻撃が途切れるタイミングは必ずある。そして、そうなると当然敵から反撃が来るわけで。スマッシャーは左の掌を彼女たちの方に突き出すようにして鋼のような右腕を後ろに振りかぶり、力を溜めていく。
「強い攻撃が来るぞ!気をつけろ!」
「はい!」
次の瞬間、解き放たれた右腕が唸りを上げてマイとハルを襲った。
「させない!」
その攻撃をマイはしっかりとガードした。
「く……うううう!」
だが、さすがに力負けしている。完璧に近いガードでダメージこそほぼなかったものの、これでは反撃に移れない。
だがそれはあくまでも、マイに限ればの話。
「ハル、トドメだ!」
「はーい!」
マイが前に出たことで守られた形のハルが、彼女に代わって前に出る。
ハルはマイを回り込むようにして側面から前に出て、横殴りにハンマーをぶん回した。マイのガードに凌ぎきられて右腕が伸び切っていたスマッシャーに、そのハンマーを避ける余力は残っていなかった。
「せーのっ!飛んでけぇ〜!」
いや飛ばすなよ?ぶっ飛ばすけど吹っ飛ばしたらダメだからな?
とか脳内でツッコむまでもなく、スマッシャーはダメージの累積で限界を迎えたかのように、その場でぐしゃりと潰れた。
さあ、あとはゲートだけだ。
「残るはゲートだけです!壊して下さい!」
サキがゲートの位置を特定して、そこにハルとマイが駆け寄っていく。ハルはともかくマイは肩で息を始めているが、まだ動けなくなるほどじゃないな。
「これで最後だ。マイ、行け!」
「はい!」
人の頭くらいの位置に浮遊するゲートにマイが走り寄り、斬りかかった。
先ほどと同じように、連続攻撃からジャンプして斬りつける。そして、ここまで溜めていたハルとマイのドレスにセットされた武装魔術も発動可能になっている。
「マイ、ハル、叩き込め!」
「はいっ!」
「いっけぇぇ!」
ハルの武装魔術は巨大な火の玉、マイのそれは乱れ飛ぶ風の刃。必殺の大技が二度続けてゲートを襲う。
暴力的な大技を立て続けに食らったゲートは、そのまま爆散して消し飛んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「マスター、見ていてくれましたか?私、やりましたよ!」
最後のゲートが消滅するのを見届けて、ガッツポーズで勝利の歓喜を爆発させたマイが俺に向かって振り返る。
「おう、よく頑張ったなマイ!もうお前は一人前だよ」
「ハルもハルもー!マスター誉めてー!」
「よしよし、ハルもよく頑張ったな!もちろんサキもね」
「……わ、私は“舞台”を張ってただけですし。別に誉められる事は何も。
そ、そんな事より早くステージに戻りましょう!もう開演まで時間ありませんよ!」
『マスター、皆さん、オルクス討伐お疲れさまでした。
もうレイちゃんたちには皆さんが討伐に出ていることを伝えてありますから、慌てず戻ってきて下さいね』
「了解。ではファンに見つからないように戻りますね」
サキにスケーナを維持させつつ現場を離れ、外に出たのと同じ通用口から建物内に戻る。その時点でスケーナを解除し、あとは全員でダッシュするだけだ。
大急ぎで楽屋に戻り、汗を拭いステージ衣装を整えてメイクさんに超特急でメイクの手直しをしてもらい、みんなの待つ舞台袖にたどり着いた時にはギリギリ開演2分前。ふう、何とか間に合ったな。
「マイ、大丈夫か?」
舞台袖、少し疲労の感情の出ているマイに声をかける。
「アハハ……。ちょっと、疲れましたけど、でも大丈夫です」
彼女は気丈に答えた。
「むしろ、よかったです。マスターたちと一緒にゲートを討伐できて。
私ひとりだったら、『もし手間取ったら、勝てなかったら』とか、きっとそんな事ばかり考えてたと思います。
今でも自信は、その、あんまりないですけど。でも一生懸命、目の前のことを頑張ればいいんだって思えました」
言葉を選びながら、おずおずと。
「だから、私のこと、一番近いところで見守っていてくださいね、マスター」
だが、それでも自分なりの決意を込めてマイが言う。
真っ直ぐな瞳で俺を見つめるその顔は、覚悟と決意に満ちていた。
うん。その想い、確かに受け取ったよ。
だから自分なりに、自分のペースで。
思う存分頑張れ、マイ!
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次回更新は15日です。
次回、【マイのデビューライブ】の章の最終話です。




