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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マイのデビューライブ】
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第十一幕:“透明”の新人(1)

 翌20日、木曜日。


 今日は新レフトサイドの1DAYジャックの仕事が入っている。首都TVに1日陣取って、朝の情報番組から夜のニュース番組まで各番組に出演()まくって、ライブの宣伝と告知をやってしまおうってわけだ。当然、俺も彼女たちに1日中付き添う事になっている。

 今日はTVだけでなく、ラジオまで含めて10以上の番組に顔を出すので相当大変だ。タイムスケジュール調整は局の担当者さんが付いてやってくれるのでいいけど、スタジオやブース間の移動時間はもちろん食事の時間まで細かく決まっているので、きちんと管理出来るかいまいち自信がない。ナユタさんだったらこういうの得意なんだろうけど。

 ちなみに他の子たちも巡回以外の仕事は外してあるから今日は終日レッスン漬けだ。いわゆる最終追い込みってやつだね。


 ということで今は朝の5時50分。そろそろ新レフトサイドのメンバーも降りてくる時間だ。朝7時からの情報番組がスタートなので、6時過ぎには出発しなきゃ間に合わないんだよね。

 と、言ってるそばから3人が降りてきた。お揃いのMuse!制服に身を包み、メイクもある程度整えてある。

 んー、マイはさすがにまだ眠そうだな。まあ俺も人のこと言えないけど。ハルはシャキッとしてるけど、この子はなんか寝付きも寝起きも良さそうだしな。でもユウが眠そうなのはちょっと意外。


「おっはよーん!マスター待ったぁ?」

「お、遅くなりましたー!ちょっと、その、寝坊してしまって……」

「……は?」


 マイ寝坊したの?そりゃ確かに出発ギリギリではあるけど。


「いやそんな寝坊ってほど遅れてないぞ?」

「マスター、申し訳ありません。寝しなに読みかけの小説を開いたら止まらなくなってしまって……ふぁ……」

「……あ、寝坊ってユウの方か」

「うう、せっかく庇おうとしたのにぃ……」


 こらマイ。そういうのは言わずに飲み込んどくもんだぞ。


「皆さんおはようございます。今日は1日仕事で大変ですけど、しっかり頑張ってきて下さいね!」


 早出してくれてるナユタさんが3人に声をかける。今日は朝から晩まで俺が居ないので、事務所の仕事は全部お任せだ。


…というか、平静を装ってるけどまだ昨日の恥ずか死が残ってますよねナユタさん?まあ、そこを不必要にイジって仕事にならなくなっても困るから、敢えて何も言わないでおくけど。

お互い何事も無かったかのように振る舞うのは、仕事上の関係としては普通のことだしね。


「……桝田さんを含めて言ってるんですよ?ちゃんと聞こえてますか?」

「へ?あ、ああ、はい。大丈夫です」

「ちゃんと目を覚まして下さいね。特に桝田さんは運転もするんですから。しっかりしてもらわないと」

「ふぁい……」


 あ、欠伸出た。


「もう!言ってるそばから!」

「マスター、そろそろ出発しましょう」

「……そうだな。じゃあナユタさん、後頼みます」

「こちらの事はいいですから。安全運転で、しっかりお願いしますね?」


 微妙に信用してない表情のナユタさんを残してガレージに移動してワンボックスに乗り込んで、もうすっかり明るくなってる朝の街に出発する。

 今日も長い1日になりそうだ。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね!」

「朝早くからすみません。お世話になります」

「いえいえ、これも仕事ですから!」


 まだ朝のラッシュが始まる前なので、20分ほどで局に着いた。駐車場にはすでに担当者さんが待っていてくれて、そのまま入構証を受け取って楽屋に案内される。この担当者さんも早出なんだろうな。ご苦労様です。

 楽屋で局のメイクさんに髪やメイクの手直しをやってもらい、軽く発声練習などしつつ、スタジオ入りしたのは放送開始2分前だった。

 意外とギリギリだったな。一応、あらかじめ打ち合わせた通りの時間で動いてたんだけど。


 朝7時の時報とともに番組のオープニングが始まり、ゲストとして新レフトサイドが紹介される。生放送なんだけど、まだ完全に目覚めてないせいかマイが意外と堂々としている。これはかえって良かったかも?

 30分ほどスタジオでやり取りして、CMの合間に捌けてくる。次はラジオ番組だ。


…ん?マイ、顔色悪くない?


「あっあの、今のって、その、生放送……なんですよね……?」

「そうだよ?もうお茶の間に流れたぞ?」

「ひ、ひえぇ……!私、だ、大丈夫でした!?」


 あっさては、やっと目覚めたな。


「大丈夫でしたよ。マイちゃん可愛かったです」


 青ざめるマイに、局の担当者さんがすかさずフォローを入れてくれる。コバヤシさんという26歳の女性社員の方だ。Muse!の大ファンだそうで、この仕事が決まって担当になってからずっと楽しみにしてくれていたのだという。


「だったら、良かったです……けど……」

「最初の番組からそんなにオドオドしててどうするのさ。もっと開き直って堂々としてなよ」

「欠伸だけは、出さないように気をつけなくてはいけませんね……」

「もう朝日上ってるよ〜?お日様、浴びとく?」


 それはそれでシャッキリするとは思うけど、残念ながらスケジュールきちきちなんだわハルさんや。


「ま、まあまあ。次はこちらのブースですから。皆さんよろしくお願いしますね」


 またまたコバヤシさんがフォローを入れてくれる。次は朝のラジオ番組で、こちらは番組の途中にお邪魔する形になる。

 まずはブースの隣の控え室に入って、と。


 はいマイ、口開けて。

 次は声だけの出演なんだから、喉の調子をきちんと整えとかなきゃな。はいプシュ。

 はいユウも、ハルもね。


 喉の調子を整える専用のスプレーを3人の口に含ませて、飲み込んでも大丈夫なうがい薬でうがいさせて、軽く発声練習して。

 ディレクターさんからOKが出たので、無言で音を立てないようにブースに送り出す。ヘッドフォンを装着したところでCMが明ける。


 こちらの番組では15分ほどで退出した。3人ともリスナーからのお便りを読んだり、それにコメントしたりしてそれなりに楽しんだようだ。

 最近の番組はどこもSNSのアカウントを持っていてハッシュタグなどでコメントを募集したりするので、リアルタイムで聞いてるリスナーの生の反応にマイがビックリしていた。


「お疲れ様でした。次はこちらです」


 コバヤシさんに案内されて次のスタジオへ。こちらは収録番組で、今度のライブの告知だけで簡単に終わる。

 さらに別のスタジオへ移動し、朝イチに出た番組の次の枠の生放送にオープニングからお邪魔する。

 さすがにここまでくるとマイもユウも完全に目を覚ましていて、ハルも含めて三人三様の受け答えが出来るようになっている。うん、順調順調。


…まあ、マイはまだ戸惑ってるけど。


「あっあの、私、あんなので大丈夫なんでしょうか……?」

「あんなのでって言ったって、自分できちんと考えて返してるだけだろ?大丈夫だって心配すんな」

「で、でもぉ……」

「大丈夫ですよ。マイさんはもう『Muse!レフトサイドのマイ』なんですから」

「マイちゃんはちゃんと可愛いですから大丈夫ですよ」

「そ、そうですかね……」


 相変わらず自信なさすぎだなあマイは。

 どれ、ちょっと言いくるめてやるか。






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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