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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マイのデビューライブ】
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第十幕:群青色の眠気(2)

 レイをお姫様抱っこして、なんのかんのと騒ぐハルやサキを引き連れてパレスに戻った時には、もう9時近くなっていた。比較的軽いとは言っても、さすがに女の子ひとり抱えて数百メートルも歩けば結構キツくなってくる。

 これがお姫様抱っこではなくておんぶならもう少しぐらい平気なんだけど、さすがにそれやるとレイの大きな胸がね……。いや役得ってことで堪能してもいいんだけど、リンに気付かれたら絶対怒られるしな。


 ていうかレイ。すやすやと寝息立てちゃって、もう完全に寝落ちてるじゃねーか。

 群青色が濃くなってるけど、これ眠気……いや安眠、快眠?つうかそもそも感情って判断していいのか?


「さて、じゃああとはサキに任せていいか?」


 寮棟のリビングに上がって、レイをソファに降ろす前にサキに声をかける。


「いい訳ないでしょう。レイさんをお風呂に入れなくてはなりませんから、マスターはそのままバスルームまでついて来て下さい」

「…………いや、ダメだろそれは」


「……何を勘違いしてるか知りませんが。今回は特別に脱衣場までは侵入(・・)を許可する、と言っているんです。ベンチソファがありますから、そこにレイさんを降ろしたあとは直ちに退去して下さい」


…ああ、そういう事ね。


「そこまでやってくれれば、後はハルたちで何とかするよ~!」

「うん、ってかそこから先は俺やれないし」


 ハルが駆け寄ってきて、レイの肩をポンポンと叩く。


「レイちゃん、レイちゃーん。お風呂行くよ~」

「んぅ……。

きょうはおふろ、もういい……。

このままねりゅ……」


 レイはそう言って、右手で俺の服の肩のあたりをギュッと握って身体を密着させてきた。そうすると豊かな胸が胸板に押しつけられてくる。


 いやいや待て待て。

 幼児化レイとか超レアなもんが顕現してんぞ。

 つうかナイスバディの幼児とか、どう反応していいか分からんわ。むしろ反応したらアカンところが反応するっつの!


「ダメだよぉレイちゃん!ちゃあんとお風呂入らないと!」

「そうですよレイさん。いつも自分で言ってるじゃないですか、『清潔感のないアイドルなんて有り得ない。雑巾をハンカチにするようなものだ』って」


「…………やだ。もうここ(・・)からうごけない……」


 こらこら、俺をベッドと勘違いするな!


「もー!ダメだってば~!」

「やれやれ。これは無理やりお風呂に連れ込んで、冷たいシャワーでも浴びせないと起きなさそうですね」


 結局、本当にバスルームの脱衣場のベンチソファまでお姫様抱っこのままレイを運び込むハメになってしまった。

 ハルやサキだけでなくリンたちももちろん入るだろうから、バスルーム内で寝ぼけたレイを介護する人手は充分足りるだろう。もう少ししたら他の子たちもバスルームに直行してくるはずだし、あとはみんなに任せよう。

 しかし大丈夫かなレイ。割と熟睡に近いとこまで堕ちてたけどな?


「レイさんの着替えは後で私が部屋まで行って取ってきます。もしお風呂に入れても起きなかった場合はまた呼びますから、その時はマスターに部屋まで抱えて行ってもらいますので、そのつもりで」

「え、ってことは俺、待ってなきゃいけないの?」

「当たり前でしょう?リビングで待機していて下さい。まあ、さすがにお風呂入れば目を覚ますとは思いますが。

では、そういう事で」


 そう言ってサキはドアノブにいつもの立ち入り禁止札をかけると、バスルームのドアを閉じてしまった。

 廊下にはひとり、俺だけが取り残される。


…やれやれ。僕も疲れてるんだけどなあ。

まあ、仕方ないか。


 騒々しい黄色い声の聞こえてくるドアの前を離れて、リビングに戻る。レイじゃないけど、今日はいろんな意味で疲れたな。

 そういやリンとマイのやつ、ちゃんとハクとアキ(あのふたり)連れ帰ってこれる……よね?



 一旦気にし出したら止まらなくなって、結局様子見がてら迎えに行ってしまった。まあレイたちもそんなすぐには上がってこないだろうし、ちょっとくらいならいいだろ。

 そう思って見に来たら……。


「ハク。起きて自分で歩きなさい」

「…………はい、ミオさ……Zzz」

「こら、歩きながら寝ない!」


 うん、ハクの方は大丈夫そうだな。

 じゃあ問題は……


「マイさん、アキさんの脚を抱えて下さいね。リンさんはお尻を支えて……行きますよ!」

「せーのっ!」

「……ああもう!なんで、アタシ、たちがっ!」

「Zzzzz……」


 ある意味修羅場と化していた。

 いやアキもヒョロっとしてるし、そんな重くないはずなんだけどな。まあ身体の力の抜けてる人体って、案外重く感じるもんだけどさ。


「あー、いいよ、俺が抱えていくから」

「あっ、マスター、戻ってきて下さったんですね」

「お、お願いしていいですか……?」

「アンタねえ、戻ってくるんなら先に言っときなさいよね!」


「……うん、3人で大丈夫そうだな」

「あっウソウソ、ゴメン!ゴメンってばぁ!」


 というわけで結局、疲れ切って力の入らない3人からアキを引き取って、おんぶしてパレスに戻ったのだった。

 背中?いや特に何も感じなかったな。まあそれ言うと多分アキにぶん殴られるから言わないけどね。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 彼女たち全員がバスルームに入るのを見届けて。全員が上がってくるまでリビングでコーヒー飲みつつ待機。まあ夜間は所長もナユタさんも他の職員さんも誰もいないし、俺が保護者で責任者だから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。


「ツヴァイ」


 ひととおりパレスのセキュリティをチェックして回ってリビングに戻り、声を出して呼んでみる。

 ややあって、勝色(かちいろ)のヴィクトリア調メイド服姿のツヴァイがリビングにやって来た。特に大声でもなかったのに、どういうわけか彼女たちは呼ぶと必ず聴き取って現れる。多分魔術的なカラクリか何かがあるんだろうけど詳しくは聞いてない。てかアインスもそうだけど、ホムンクルス(この子)たちどこで休んでるんだろうね?


「今figuraたちがバスルーム使ってるから、全員上がったら掃除しといて」


 ツヴァイはコクリと頷くと、スッと歩み寄ってきてやや腰をかがめ、俺の飲んでるコーヒーのマグカップに向けて手のひらを上にして差し伸べる。


「ん……あ、おかわり?じゃあもらおうかな」


 またコクリと頷くと、ツヴァイはすぐに目の前のドリッパーの下のコーヒーポットを手に取って、俺の目の前に置いてあるマグカップに新しく注いでくれる。お礼を言ってマグカップを手に取ると、彼女はポットを元に戻して、そのまま俺の座るソファの後ろに控えて気配を消した。

 いやまあ気配なら最初から無いんだけど。てかメイドさん従えてコーヒー飲むとか、なんかちょっと偉い人になった気分だな。



 そうこうしてるうちにリビングの先の廊下の向こう、バスルームの方から黄色い騒ぎ声が聞こえ始める。どうやら彼女たちが上がってきたみたいだ。

 サキがリビングに顔を出して、まずツヴァイがいるのにぎょっとしたあと、俺を見て小さく頷いた。どうやらレイもアキも自力で部屋まで戻れたみたいだ。


「じゃ、あとはよろしく」


 残ってるコーヒーを飲み干して、ツヴァイに声をかけてソファから立ち上がる。頭を下げるツヴァイに見送られつつ室内履きをつっかけて、リビングから渡り廊下に足を向けた。

 やれやれ、やっと部屋に帰れそうだ。






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は20日です。

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