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その感情には“色”がある  作者: 杜野秋人
【マイのデビューライブ】
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第五幕:アフェクトス注入⸺リン(2)

「んっ、ああっ!」


 アフェクトスの注入が始まると同時に、やはりリンも悶える。

 この時どういう感触なんだろうか。


「う……ああ……ぁはぁっ!

あ、あっ……やあああああっ!」


 彼女は今までの誰よりも激しく喘いだ。

 いや、こんなに喘がれるとちょっとなんかイケナイ事してる気分になってくるんだけど。それでなくても女子高生(くらいの年齢の子)と密室にふたりきりなんだし、アラサー男子には色んな意味で刺激が強いというか、ドキドキする。

 だが注入は止めなかった。

 リンにはちょっと申し訳ないけど、記憶の鍵が発現するまで耐えてもらおう。今考えてる推測が正しければ、メインのアフェクトスを一定量まで注ぎ込めば鍵が発現するはずだ。


 部屋に充ちている赤怒(マゼンタ)のアフェクトスが、吸い込まれるように『霊核(コア)』の鍵穴を通して彼女に流れ込んでゆく。


「は……は……ああっ!っん、やっ!

もう…………ダメェ!」

「もう少し、頑張れ!」


 部屋のアフェクトスはほぼ全部注ぎ込んだ。けれどもなかなか『鍵』が発現しない。

 もしかして、推測が間違っていたのか?そう不安になって、一度注入を止めて鍵を抜いた。


 リンは顔を真っ赤にして、腰が砕けたみたいに崩れ落ちてストン、と尻餅をつく。半分放心状態になっている。やはり注入する側も精神力を消耗するようで、俺も結構疲労を感じていた。


「大丈夫か、リン」


 しゃがんで目線を合せて、意識があるのを確認してから聞いてみる。


「う、うん……ちょっと、ドキドキ、する……」


 と。

 浮かび上がったままのリンの鍵穴の上に光が集まりだして、それはすぐに『鍵』の形になった。

 あー、なるほど。注入を終えないと発現しないのか。


「これが、アタシの……記憶……?」


 彼女のギアの鍵穴の上に浮かんでいるのは、初めて見る色と形の、鍵。


「そうだね。リンの心の中の『記憶の迷宮』を開いて、記憶を奪還するための、最初の鍵だね」

「記憶の……迷宮……?」

「ひとまず今日はここまでにしようか。リンもだいぶ疲れたみたいだし、鍵はもうリンの心の中にあっていつでも出し入れできるから」

「うん……まだちょっと、ドキドキする……」


 今回は性格は特に変わらなかったっぽいな。まあ後で変わるのかも知れないけど。そこらへんも要検証か。


 インカムをナユタさんに繋ぐ。確かこの時間ならまだ帰っていないはずだ。昨日上げられなかった定例報告書を作成するとか言ってたし。


「ナユタさん、まだ居ますか?リンの迷宮って観測出来ますか?」

『はい、作戦指令室(オペレーションルーム)にいます。マスター、リンちゃんの鍵を手に入れたんですか?』

「はい、発現しました。まだ使ってはないですけど」


 今知りたいのは、鍵の入手だけで『迷宮』が開くのか、それとも使って初めて開くのか。その一点だった。


『⸺リンちゃんの迷宮はまだ観測できません。やはり一度鍵を挿して開かないとダメみたいですね』

「分かりました。邪魔してすいません」


「やっぱりその鍵を使った後でないと『迷宮』は開かないみたいだ」


 通信を切って、リンの方に向き直りつつ話しかける。彼女はクッションの上に座り直していた。


「そっか……。じゃあ、いつにする?アタシはいつでもいいっていうか、マスターに任せるっていうか」


 そう言う彼女の身体から、さっき注入した赤怒(マゼンタ)ではなく黄喜(イエロー)のアフェクトスが立ち上っている。


…ああ、今分かった。リンの黄喜の感情って多分“信頼”だ。

まずいなあ、この子“依存”だけじゃなくて“信頼”まで持ってるのか。これ、この子への接し方を誤ったら大変なことになりそうだ。


「とりあえず明日以降かな。リンの心の準備が出来てからにしよう」

「う、うん。分かった」


 リンの眼差しが俺への信頼に満ちている。アフェクトスの注入ってなんかそういう好感度とかも上がる仕様なの!?


「じゃ、俺ちょっとナユタさんのとこ行ってくるから。リンはもうこのまま寝てもいいし、シャワー浴びてきてもいいし。まだ寝ないならリビング下りてもいいと思う」


 なんかいたたまれなくなり、そう言い残して彼女の部屋を逃げるように出た。エレベーターでそのまま地下まで降りる。

 マイとリン、それに今までアフェクトスを注入した子たち。これだけサンプルがあれば『鍵』の発現条件は概ね割り出せるだろう。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「ナユタさん、居ますか?」

「はい、どうしました?」


 作戦指令室のデスクでパソコンに向かっている所を見ると、まだ報告書が上がってないみたいだ。


「邪魔してすいません。リンの感情レベルがどこまで上がったのか知りたくて。あとマイのと、できたらユウやレイのも」

「いえ、大丈夫ですよ。皆さんのレベル差を測定すれば、鍵発現までのアフェクトスの必要量がだいたい測れそうですね!ちょっと確認してみます」


 さすがナユタさん、飲み込みが早い。

 マイとリンはメインとなる色のアフェクトスの注入で『記憶の鍵』が発現した。だけどユウと、あとレイも、メインのアフェクトスを注入しているにも関わらず鍵は発現していない。

 つまりユウやレイとマイ・リンとの間には、明確に感情レベルの差が出ているはず。


「測定結果、出ました。メインのアフェクトスだけですと、ユウちゃんがレベル2、レイちゃんがレベル3、マイちゃんがレベル4、リンちゃんはレベル6まで上がってますね」


 ありゃ。リンにはちょっと入れすぎたか。

 でも、これで確定した。


「てことは、レベル4まで入れれば鍵が発現する、と」

「おそらく、そうなりますね」


「一応念のため、サキのも確認してもらっていいですか」

「了解しました。

⸺サキちゃんの紫怨(パープル)はレベル3、ですね」


 ということは、やはりメインの感情(アフェクトス)でないと『記憶の鍵』は発現しないということになる。

 ただ、レベル4のマイはあれだけ必死にかき集めての数値なので、感覚的にどのあたりがレベル4なのかはもう少し確かめないと分からないな。

 レイやサキの時の感覚と注入量が、そのまま当てはまれば簡単なんだけど。


「3人目の鍵を発現させないと、ちょっとレベル4がどのくらいの量なのか分かんないですね」

「ですね。今日これから試しますか?」

「いや、今日はもう止めておきます。所長も焦ることはないって言ってたし」


「そうですね。焦らずゆっくり、やりましょうね」


 ナユタさんはそう言って微笑んだ。

 ちょっとドキッとするくらい、可愛らしい笑顔だった。






お読み頂きありがとうございます。

次回更新は25日です。

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