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第十幕:茜色の初陣(1)

 自分の仮個室への家具の搬入に立ち会っていると、作戦指令室に集まるように、と召集がかかった。


 個室に搬入された家具、なんか見覚えがあるなと思って搬入業者に尋ねてみたら、元々自分が住んでいた部屋を(勝手に)解約して引き取ってきたものなのだそうだ。家具だけでなく部屋にあった所持品一切が運び込まれ、さらに銀行口座の残金までご丁寧に全部引き上げられて手渡された。なお所有していた私物の自家用車はガレージにあるとのこと。

 何を無断でやってくれとんじゃい、と思ったが、自分が社会的に抹消(・・)されている(・・・・・)かも知れないと言われたことを思い出した。どのみち魔防隊とやらに関わった以上元の生活にはもう戻れないんだし、そもそもその部屋の(・・・・・)住人(・・)はなんか事故で死んだって事で話が進められている、らしい。


 いやもう勝手にしてくれ。そのうち本当に死ぬかも知れんし。ナユタさんの話だけじゃなく、オルクスと戦う以上は俺自身が喰われて死ぬ可能性だって高いんだから。


 で、作戦指令室に呼び出されたのはfigura達との顔合わせだろう。改めて紹介するとも言われていたしな。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




「揃ったか」


 所長が室内を見渡す。その左右には俺と、反対側にナユタさん。オペレーションテーブルを挟んで向かいにはfiguraたち。

 みんな、戦闘モードではないので瞳こそ虹色ではないが、戦闘の時のような真剣さだ。


「改めて紹介しよう。彼は桝田(マスタ)(ユウ)

今後、君たちfiguraのマスターとして運用する事になった。感情と記憶に関する特異な能力を持っていてね、君たちの力になれるはずだ」

「桝田悠です。よろしく」


「ちょっと所長!それ本気で言ってるの!?」


 いの一番に抗議の声を挙げたのは、ライトサイドのリン。紅玉(ルビー)色の長い髪を頭のサイドでまとめてふたつのシニヨン(おだんご)にしていて、それぞれひと房ずつ髪を垂らしている所を見るとかなりの長髪だ。小柄だが身体のメリハリがハッキリしてる、いわゆるトランジスターグラマーというタイプで、ちょっと勝ち気で活発そうな子だ。

 業務用にと支給されたタブレットに入っているパーソナルデータによれば17歳、2番目にfiguraになった少女だ。この子はマイが正式加入してレイがセンターソロとして独立すれば、ライトサイドのリーダーに昇格する予定だ。


魔防隊(われわれ)の決定に異存があると?」

「うぐっ。……ど、どうしてもって言うなら仕方ないけど、アタシはまだコイツのこと認めてないからね!」


 リンはそう言ってビシッと俺に指を突きつける。

 いや分かりやすすぎるだろこの子。


「マスター、ということは。彼に戦闘指揮を任せるつもりなのね?」


 これは全体リーダーで、ライトサイドのリーダーでもあるレイ。亜麻色の腰まである長い髪の、プロポーションのいい大人っぽい雰囲気の少女……少女というよりはもう、ひとりの大人の女性というべきか。全体でも最年長の19歳だ。


「そうだ。以後、戦闘の際には全て彼の指示に従ってもらう」


「……正気ですか、有り得ません。今まで戦闘経験を積んできた私たちに、こんなどこの馬の骨とも分からないド素人の指示に従えと?」


 これは全体で最年少、14歳のサキ。レフトサイドのメンバーだ。瑠璃色の、うなじで切り揃えたショートボブでメガネをかけていて、その奥の斜に構えた菫色の目がこちらを遠慮なく値踏みしている。

 相変わらず失礼な小娘だが、言ってることはもっともだ。だって自分でもそう思うし。


「オレはどうでもいいけどよ、つまんねえ指示出して足引っ張りやがったらぶっ飛ばすかんな」


 ライトサイドのアキ。ぶっきらぼうで男言葉の、一見ガサツにも見える萌葱(もえぎ)色のベリーショートの痩せぎすの少女。この子なんか怖い。


「……あっ!マスターだからマスタさんなの?それともマスタさんだからマスターなの?」


 レフトサイドのハル。陽気で元気一杯な、明るい萌黄(もえぎ)色の髪を短いポニーテールにまとめた子で16歳、アキの双子の姉らしいが、体型的には⸺主に身長が全く似ていない。性格も雰囲気も全然違うし、たぶん妹と違ってアホの子だ。

 いや偏見は良くないか。


「あ、あの、私は……嬉しい、です」

「貴女の意見は聞いてないですマイさん」


 マイが一生懸命助け船を出そうとして、サキに一撃で撃沈される。

 うん、気持ちはありがたいけどね。

 ちなみにマイはまだ15歳だそうだ。高校一年生だったんだな。


「まあまあ、皆さん。まずはお手並みを拝見してはいかがです?」


 ライトサイドリーダーのユウ。タレ目でおっとりした雰囲気の色白グラマーな、ゆるふわパーマのセミロングの髪のお姉さん。やっぱり色っぽいなーこの子。


「そうね。言葉より行動で示してもらった方が早いかしら」


 レイのその言葉で、全員でシミュレーターに移動することになった。




  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆




 で、まあ。一通りシミュレーターでバトルした結果。


「ま……まあ、思ってたよりはやるじゃない」


 とリン。


「……ふむ。事前に私たちの戦力やデータを頭に叩き込んでおくのは当然として。それなりに理にかなった指示ではあったかと思います」


 とサキ。


「ま、オレは敵を爽快にぶっ飛ばせれば何でもイイけどな?」


 うん説明不要。


 まあ、否定意見はだいぶ覆せたかな。事前にシミュレーターのデータを見て、各人の戦闘傾向とか予習しててマジで良かった。ていうか、ナユタさんのあの脅しが無ければ絶対そんなことやってなかったし、これは後でお礼言わなきゃな。


「では異論はないね。他に、彼には通常業務としてMuse!のマネージャーにも就いてもらう。

みんな、そのつもりでいてくれ」


 所長が満足気に言う。


「なるほど。ではナユタが今までやっていた業務の一部をマスターに移管する、ということね」

「その通りだ。彼女には今後、桝田君のサポートとバックアップ、オルクス索敵など“マザー”関連の各種オペレーション業務、シミュレーターのメンテナンス、それにMuse!の長期芸能スケジュールの把握と運用あたりをメインにやってもらう」


 うわ、仕事多っ!?

 えってことはナユタさんて今までめっちゃ働かされてたんじゃ!?今のに加えてマネージャー業務とマスター業務もやってたってことよね!?

 ビックリして彼女の方を見ると、誰にも気付かれないぐらいささやかに苦笑していた。安堵の感情と喜びの感情がほんの少しだけ視える。

 うわあ、これ俺がポシャったらナユタさんまで死ぬやつやん。


「では、改めて自己紹介を。

私の名前はレイよ。全体リーダー兼ライトサイドリーダー、マイが正式加入したらセンターソロということになるわね。マスター、どうぞよろしく」


 レイが歩み寄ってきて優雅な仕草で手を差し出してくる。「よろしく」と返して握手に応じたら、意外と強い力でしっかりと握り返してきた。

 ウエストまである亜麻色の長い髪に、感情をそのまま映したような蒼い眼。自信に満ち溢れて堂々としたその姿は、まだ19歳とはとても思えないオーラに溢れていた。


 (シアン)に近い(サファイア)。⸺これは“自信”かな。


「私はユウ、レフトサイドのリーダーを務めさせて頂いております。⸺名前、おんなじなんですね」


 あ、そう言われればそうだな。


「ふふ。以後、よろしくお願い致しますね、マスター」


 言われて初めて気付いた、って顔したらユウはくすりと微笑(わら)った。そうして彼女はたおやかな物腰のまま、優雅に腰を折る。

 撫子(なでしこ)色っていうのか、わずかに紫がかった濃いピンク色の、色合いこそ派手だけれど落ち着いた色味のセミロングの髪の女の子。だがそれ以上に、たわわに盛り上がった豊かな胸とキュッとくびれたウエストが目を引く。

 これでまだ18歳だっていうんだから、最近の子はホント発育がいいよなあ。


「やっほー、ハルでーす!一緒にたくさん遊んで仲良くしたいなー!よろしくね、マスター!」


 いや遊び友達じゃないんだけどね?そんなぶわっと楽しさのオレンジ出されても困るんだけど?

 まあこの子はなんつうか、体型からも雰囲気からもあんまり女の子として意識しないで良さそうな感じはある。


「サキと言います。はじめまして、マスター。

⸺ああ、役に立たなかったら容赦なく切り捨てますんで、よろしくお願いします」


 うーん、一回り以上歳上の上司になる人に言うセリフじゃねえなあ。

 それなりに可愛いし、体型も成長期の少女らしい瑞々しさと華奢さが目につく。ただそれ以上にツンと澄ました空気というか、なんか周囲に壁作ってる感じがするなこの子は。こりゃ仲良くなるのも一苦労かな?


「アタシはリン、今度レフトサイドのリーダーになるわ。

⸺改めて言っておくけど、まだアンタのこと認めたわけじゃないからね!どんな力を持ってるのか知らないけど、役に立たなかったら承知しないんだから!」


 リンはホント分かりやすいツンデレ属性だな。こういう子って懐いたら懐いたで面倒くさいんだよな。

 そしてこの子が今俺に対して警戒一色なのは、仲間の子たちを守ろうとしているのだというのも視えてたりする。仲間思いで面倒見も良さそうで⸺ってなると、やっぱり懐いたらデレッデレなタイプなんだろうなあ。


「ったく、リンはいちいちぎゃあぎゃあウルセエんだよ。役に立たなかったら戦闘のドサクサに紛れて片付けりゃいいだけだ。⸺ま、そんなわけでよろしくな。オレはアキってんだ」

「アキちゃんが物騒なこと言ってるー。お姉ちゃんは悲しいなあ〜」

「こういう時だけ姉面すんじゃねえよハル。⸺ったく、なんでオレとお前が双子なんだ、意味分かんねえだろ」


 うん、外見も性格も全く似てな⸺いや目鼻立ちは確かによく似てるけど、まあ似ても似つかない双子だねえハルとアキ(君たち)

 つか怖えからアキさん。お手柔らかにお願いしますね?







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