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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第三章 夜の底。
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第二十五話 激闘 2



九頭竜クトルは吠える。蒼穹の咆哮。街が焼ける。悲鳴が上がった。のぼり立ての朝日より鮮烈な光。爆発する蒼穹。蒼い閃光が周囲を覆う。霧の街が異変に目覚める。焦りと恐怖がロイを包むが、彼は折れない。着地と同時に背中のジェットで九頭竜クトルに跳びかかる。九頭竜クトルは蒼咆哮を吐く。ロイは破裂する鉄拳(ドーバーガン)で相殺する。


 「お前の再生と俺の鉄拳!どちらが上回るか勝負だ!」


 ロイは侍のように礼儀正しく、宣言した。知能が高いとされる九頭竜クトルはロイの言葉を理解したのか、少し笑ったように見えた。それが一層、龍の凶相を増す。龍は九つの首で空中に跳び上がったロイを取り囲む。でも、ロイは怯まない。彼の狙い通りだ。


 破裂する鉄拳(ドーバーガン)!!


 ロイは周囲に向けて鉄拳を連打する。灼熱の衝撃が龍の鱗を砕き肉を抉る。九頭竜クトルは悲鳴を上げてロイの囲いを外す。九頭竜クトルが燃える。だが、その再生能力は強力で、火傷を治し鉄拳の炎を消してしまう。ロイは攻撃を止めない。龍はロイの攻撃を躱そうとするが躱しきれず、連撃を浴びる。強靭な龍の肉体でも破裂する鉄拳(ドーバーガン)が直撃すれば首は吹き飛んでしまう。殆ど零距離からの連撃を受けた九頭竜クトルは五本の首を失いロイと共に落下した。ロイは着地と共に再びドーバーガンの連撃を打ち込むつもりだったが、着地寸前で九頭竜クトルの強力な尾のなぎ払いを貰ってしまう。直前で躰を捻り、直撃を避けたがとんでもなく重いその一撃に、ロイは吹き飛ばされて民家に突っ込んだ。壁が粉砕されて、家人の悲鳴が上がる。体がバラバラになりそうだった。激痛が意識を持って行こうとする。だが、それよりも。


 「まずい。民家に近すぎる。」


 九頭竜クトルは悲鳴を上げてのたうちまわる。舞闘場の外壁を打ち壊し、民家を押しつぶす。あちこちで炎と悲鳴が上がる。事態に気付いた街人達が逃げ出そうと通り越しを埋める。


 「みんな-!敵対種クリーチャーから離れてー!」


 ハクは叫びながら、大胆にも龍の頭部に飛び乗り、自慢のネイルで鼻頭を引き裂いて、注意を引きつけた。ハクは舞闘場のそばに引き下がる。九頭竜クトルはつられて民間から少し離れる。舞闘場をぐるりと取り囲む大通りに龍は移る。ほっとしながらもロイは舌打ちした。九頭竜クトルの傷は早くも塞がり、首が生え始めている。


 「後三分!勝負だ。」


 ロイは三度、九頭竜クトルに挑む。接近して、破裂する鉄拳(ドーバーガン)の連撃する。爆炎と粉塵と悲鳴が上がり、舞闘場は崩れていく。龍の姿が隠れていく。ロイは龍のマイトを探りながら、鉄拳を打ち込む。仕留めた手応えは無いが、何度か大きく悲鳴が上がりマイトが減じた事から、更に何本か首を吹き飛ばした事は間違いない。


 (上手くすれば、このまま九頭竜クトルを仕留められるか?)


 慢心。次瞬にはロイは再び薙ぎ払いを喰らった。直撃。左腕で受けたが直撃には変わらない。外殻がひび割れて吹き飛ぶ。ロイの体が浮かび上がる。このまま吹き飛ばされたら、今度こそバラバラだ。時間稼ぎも失敗するだろう。ハクが何をしようとしているのかわからないが、舞闘場周辺に龍を釘付けにしておかなくては、街人に被害が出てしまう。ロイはやるしか無かった。彼は体勢を低くし、全力で踏ん張った。が、到底、龍の力には敵わない。左腕は外殻が砕け散り、内部構造も破損していた。ロイは覚悟を決めた。吹き飛ばされるその瞬間、壊れかけの左手で龍尾を掴む。


 破裂する鉄拳(ドーバーガン)


 ねじ曲がった左腕は赤熱爆発して、龍尾を爆散させた。もうもうと上がる爆炎の向こうにロイがゆっくりと立ち上がる。尾を失った龍。ロイも失った。左腕が肩から無くなった。大量のオイルが噴き出し、電気がスパークしている。苦痛の表情のロイは、しかし、


 「後一分。」


 残り三つになった九頭竜クトルの頭部を睨み、残った右腕で鉄拳連撃を開始する。龍も必死に躱す。どちらも命懸けだ。身軽になった九頭竜クトルはロイの攻撃が半減したこともあり、鉄拳を躱し続けた。ロイは焦る。徐々にダメージを再生能力が上回る。首が増え始める。気づけば五本に戻っている。そして咆哮。蒼い焔が上がる。躱すロイに龍の体当りが掠めて、外殻を剥ぎ取る。龍尾が舞闘場に叩き込まれ、瓦礫をロイに打ち付ける。回避する余裕が無かった彼は攻撃を続けた。右足が曲がる。片膝を突きながらドーバーガンを連打する。龍はロイに近付け無かった。片腕とは言え、ドーバーガンを連射する彼には不用意に近付けない。直撃すればまた、攻守の天秤が逆転する。龍は苛立ちながら瓦礫を撒き散らし、鉄拳を躱す。そして、唐突に鉄拳は止まった。マイトを使い切ったのだ。龍は狂喜して鎌首をもたげ、ロイに飛び掛かった。


 「零だ。後は頼んだぞ、ハク。」


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