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第二十一話 舞闘場。
その朝、カタツムリモルフのメーメはのんびりと散歩をしていた。まだ、街が霧に包まれている時間帯だった。舞闘場の周囲をぐるりと一周するのが彼の日課だった。勿論、首切りの件で怖い気持ちもあったが、朝の……というよりは、夜の終わりの風景が大好きだった彼は、到底日課を見直すことが出来なかった。だからこの日も舞闘場外周を歩いていた。
もう駄目だ。
とメーメは思った。巨大な音が響き、地面が揺れた。首切りが自分を狩りに来たのだと覚悟を決めた。素早く背中の殻に隠れた。道の脇にメーメの殻が転がる。メーメは片眼だけを長く伸ばし、周囲を探る。一瞬、世界は静まった。そして、轟音、粉塵、絶叫。恐る恐る目を伸ばして見上げるメーメは、舞闘場の外壁を遥かに超える高さに聳えるドラゴンの首を見た。それも、四つ。多頭竜だ。メーメは悲鳴を上げた。
「敵対種だぁっ!!」
背面の殻から片眼と口を出した状態で彼は叫び、キリマチを転げ回った。メーメには気も留めず、敵対種は叫んだ。キリマチの大気はみしり、と歪む。




