第十四話 最後のチャンス。
クウの直近の目標は二つあった。一つは隣国のエズへ行くこと。水紋の国は良く、霧と虹の国と呼ばれたが、エズは水と陽光の国と呼ばれていた。エズは樹脂加工に長けており、透明樹脂の器に全てを納めて湖の底に沈めた国だった。陽光溢れる水底の国だ。また、エズのモルフ達は癒しに長けており、治せない病は無いと噂されていた。勿論、エズは今はもう滅んでいる。零鍵世界の多くの国々と同じように今は誰も居ない廃墟となっている。だが、癒しの秘密が残って居る可能性があるのだ。クウはそれに懸けてみようと考えていた。残された少ない時間を。
そして、もう一つの目的は逐鹿。逐鹿はもてはやされるのが嫌いでいつも目立たないようにしている。世界の秘密を探す旅に出立する時、クウと同じように西小門を選んだ。戻るのであれば、恐らく、同じく西小門から戻るだろう。逐鹿に会って話し、彼が出来たこと出来なかったことを聞こうと考えていた。全てを見てきたのならクウはそれ以上旅をする必要は無いし、まだ見ぬ場所があるのなら、クウはそれに世界の行く末を懸けて会いに行こうと考えていた。いずれにしてもクウは西に……逐鹿が戻るはずのその方角に……希望を求めていた。
クウはその短い足で一歩ずつ、少しずつ目的に向かい進む。体調が悪い時はもう明日にでも死ぬかも知れないと不安に震えたし、体調が良い時はひょっとしたらエズを越えて、逐鹿に出会い、更には大海を渡って中央大陸に到達するんじゃないかとも想った。リツザンの倍はある灰色山脈とその山々を護る荒ぶる神を越えて、帝都に到達出来たらどんなに素晴らしいだろうか?そこにはどんな景色が拡がっているのだろうか?クウはその風景を想い、それを励みに苦しい時も少しずつ進んだ。エズまでの距離は百キロメートル。クウの足であれば、うまくいけば半月程度だ。完全食は足りるだろう。粉薬は完全に足りない。それが運命の分かれ道だとクウは考えていた。彼は悩む事は無い。考えて判断し、挑むのだ。何しろクウには時間が残されていないのだから。今夜にも死んでしまうかも知れないのだ。悩んでいる暇は無い。泣いてる場合じゃない。考えて行動するんだ。
(僕にはもう、沢山のチャレンジをする時間はないんだ。でも……後一回位は何か出来るはずなんだ。)
だから、と想う。
(僕は、やるんだ。)




