第十三話 クウの旅。
クウは裏町とは反対方向にある、細い細い街道を選んで霧街を出た。霧街は三重の城壁に守られており、更にその外側に傾いた鉄柵が張り巡らされていた。細い街道と霧街を結ぶ最後の門は西小門と呼ばれていた。クウは黒丸と別れて真っ直ぐその西小門へと向かい、夜が来る前に小さな丘を越えて霧街からは見えない小川の辺に到達した。クウは荷を崩し、木の棒と油布でテントを張った。小さく火を起こし、完全食をお湯に溶かして飲んだ。さらさらと小川は流れ、少しだけではあったが星も見えた。クウにはそれで充分に思えた。誰からも顧みられる事がなくとも、星が照らしてくれるだけで、今のクウには励ましになった。
(きっと僕は、長くは保たない。だからこそ、今、やらなくちゃいけないんだ。やれる限りのことを。)
また、肺が痛んだ。血を吐きそうだとおもった。まだ、熱が抜けていない。クウは残ったお湯であさつゆの調合してくれた粉薬を飲んだ。暫くすると、薬が効き始め、苦痛が遠退く。一週間分。薬はたったそれだけだ。その後はどうなるのだろう。想像もつかなかった。じわりと何かが心の底に染み出してくる。きっとそれは絶望。でも、とクウは思う。
(僕は僕がここにいる意味を見つける。必ず。僕は最後の子で、生まれてきた役目があるんだ。それはきっと世界の秘密に繋がっていて、世界は死なずに済むんだ。)
そう自分に言い聞かせると胸の中に暖かいものが溢れ、前向きな気持ちになれた。でも、少しでも油断すると、絶望が染み出してくる。自分には存在意義など無く全ての希望は、病がもたらした狂気が誘う妄想なのだと囁きかけてくる。希望と絶望、狂気と正気の渦の中でクウは眠りについた。
真夜中、何度も血を吐いたクウはそれでも朝を迎えた。テントを片付けて、お湯だけを飲んで出立した。
(……完全食も粉薬も節約しなくちゃ。)




