第六話 彼らの恋 3
「やっぱり心配だから、ロイに会いに行くよ。」
少し調子が良くなったクウはあさつゆに言った。あさつゆは否定する。
「関わらないほうが良いと思うの。ロイだってそう思っているわ。クウは意識的が無かったから知らないけど、あの後、ロイは言ったんだよ……お前みたいな奴が幼馴染みで恥ずかしいって。これまでの統治者も出来損ない《ファンブル》は切り捨ててきたから自分もそうするんだって。」
クウはあさつゆのその一言で、喉がからからになった。頷いて肯定しようと想った。でも、無い唾をのんで、言った。
「ぼ……僕はそう思わないんだ。ごめんね、あさつゆ。いつも助けてくれてるんだけど。僕たちはずっと……。」
「あなたはファンブルしたのよ!!昔とは違うの!あのさ!誰がお見舞いにきてくれた?誰も!ねぇ!あたし達には何の価値もないの!もう、昔とは違うのよ!」
そうかも。そうだよね。そう言ってあさつゆを肯定すれば楽だ。自分は失敗作で何の価値も無い、そうやって諦めれば、悩みは無くなる。ロイと関わらなければ、劣等感を感じなくてもいい。包帯だらけの身体を見下ろす。至る所で皮膚はひび割れている。熱は下がりきらない。あさつゆの“小治癒”《カーム》が無ければ、こんな風に身体を起こしてお話する事さえ出来ない。これが現実。霧街の中心に居て、皆から注目されて、舞闘でも敵無しだったのは昔の話。たった一年だけど何もかも変わってしまった。でもこれは全てのファンブルが体験してきた事だ。色々なものから見放されて、忘れ去られて、全ては、もう戻らない。
「そうかも。そうだよね。でも、僕は僕だよ。世界が変わっても身体が変わっても、僕は変わらない。ちょっと調子が良くなったし、明日、ロイと話してくる。」
「無理よ!きっと霧城には入れて貰えないよ!」
「そうかも。でも、僕は行くよ。」
あさつゆは霧街の冷たさとファンブルの無力さを力説したが、クウの決意に変わりは無かった。最後にはあさつゆは怒って泣いた。クウには、どうしてあさつゆがこんなにも感情的になるのかわからなかった。二人とも自分の意見は変えなかったので、最後には黙り込んでしまった。沈黙の中、あさつゆはクウに消化の良い夕飯を作ってあげた後……思い出したように泣いて……クウの家を飛び出していった。
翌日、クウは血を吐いた。再び高熱を出してベッドから出られなくなった。




