第七話 走馬灯。
狩りの帰り道、昏い昏い道が続いていたが、少し先に霧街の明かりがしっかりと見えてきた。生と死、過去と未来、善と悪、愛と憎しみ、そう言った相反するものが綯い交ぜになる怪しい空間はもう少しで終わる。三人の幼なじみは、おにぎりの具の話しで盛り上がっていた。ハクもロイもおにぎりはさほど好きでは無かったがクウがおにぎりを大好きなので、好んでこの話しをしていた。結論はいつも同じだ。
「やっぱり塩握りの横に沢庵が一番好きかな。」
「具、入って無いじゃん。」
「だな。」
クウの結論にハクがつっこんでロイが同意する。この後も決まって三人で馬鹿笑いだ。目尻は限界まで下がり、口角は裂けそうなくらい上がっている。三人とも、変顔で喉の奥まで丸見えだ。ふと、クウは視線を感じて僅かに振り返る。背後に何かが迫っていた。鬼気迫るそれはヒト型の竜の姿をしていて、片手で血まみれの死体を抱え、反対の手で生首を持っていた。竜人は息も荒く、絶望していて酷く辛そうだ。クウは、その宵闇の中で漂うモルフの正邪を見抜くことが出来なかった。しかし。
「重そうじゃん。捨てちゃうの?」
クウは何故かその闇に潜むモルフに話し掛けた。ハクもロイもクウの行動に気づかず先に進んでいく。その場……街の灯りと夜の闇の境界線上……にクウを残していった。クウが話し掛けた竜人モルフは自分が抱えているものを見つめた。改めて自分が何を抱えているのか理解したようだ。憔悴しきった瞳が少し穏やかになる。恐らく彼が抱えているものには既に命は無いが、彼にとって大切なものなのだろう。でも、彼は疲れ果てていて、今にもその荷物を捨てそうだった。クウは何故か彼を助けたくて、彼を応援した。クウは告げる。
「でもさ、重くたって、大事なんでしょ?捨てちゃだめだよ。」
一瞬、時が止まり、クウの感情は完全にフラットになった。何故か、クウはその瞬間闇に潜む竜人の視線で自分自身を見た気がした。突然、空気は軽くなり、竜人は闇に消えた。クウは少し微笑んでから振り返り、ハクとロイを追って走り始めた。