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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第三章 夜の底。
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第四話 彼らの恋 1




 渦翁が裏町ナカスに要請して、医療機関コムーネの治療を受けるようになって、クウの状態は少し良くなった。勿論、霧街には霧街の医療があるが、それは成体クラに向けたものだ。輝くイドを持つ健全な……健全の定義は誰も持っていないが……成体クラを治癒するための知識と技だった。事実、渦翁は大治癒を執行出来たが、イドが塞がれたクウには全く効果を示さなかった。むしろ、ファンブル達の小治癒の方が効果があるのだ。医療機関コムーネに務めるファンブルは……霧街では使う者が殆ど居ない……小技の“小治癒”《カーム》を使える者が多く、これがクウの助けとなった。失敗ファンブルの治療は裏町ナカスに一日の長があるのだ。また、ファンブル達は原因不明の不治の病に苦しめられる事が多い為、治癒を目的とする治療よりも、症状を緩和させる治療を必要としていた。医療機関コムーネは、霧街の八掌達よりも遙かに緩和対処療法が得意だった。今、クウは倉庫を改修した自宅の作業室内にあるベッドで、上半身を起こして幼馴染みと話をしていた。ハクとローがお見舞いに来ている。もう少しで夕暮れだ。いつもなら、三人揃えば無敵になれるのだが、今は三人それぞれにもやもやを抱えていて、そうはなれない。お話も途切れ途切れだ。


 クウはポーと修行を始めてから体調が良くなり、熱を出したり、吐いたりすることが無くなった。クウは、何時の間にか、裏町ナカスウカミ達のように活力に満ちて元気なファンブルになっていた。元々、輪廻転回の儀(リーン)を過ぎたら、街を出て世界を旅する事を決めていたクウは、遅くなったがその想いを行動に移そうと決めた。ポーやあさつゆやヤハク達に挨拶をしていよいよ出発の日取りを考え始めた頃に調子が悪くなったのだ。今は医療機関コムーネの助け無しには、命を繋ぐことさえ出来ない。


 ハクは評議会に入ったばかりで多忙の極致にいた。


 それでもクウの事が心配で毎日ここに顔を出していた。その度に見るのが、ベッドで眠るクウの手を優しく握るあさつゆの姿だった。ハクは嫉妬していた。ずっとクウのそばにいられるあさつゆの事を。正直、評議会の事なんてほうりだして、クウの傍に居たかった。でも、それでは本末転倒だ。成体クラとファンブルを繋げる為に、あたしとクウを繋げる為に評議会に入ったのだ。いつか、裏町ナカスと霧街を一つにするために、評議会に入ったのだ。それは多様性の成就を意味する。本当に世界が一つになることを意味するのだ。今、これを、この可能性を手放す訳にはいかない。でも。クウの手を握るあさつゆを見る度に、クウと微笑み合うあさつゆを見る度に心がガサガサ音を立てた。ハクは泣きそうだった。毎日。


 ローは、父の言葉が頭から離れなかった。


 ……首切りの事は放っておけ。セアカの事は忘れろ。それよりも、空の眼(セル)流動する闇(ファゴサイト)への対策を検討しろ。産まれてこない子供たちを救う術を探せ。いいか?これらのことこそが肝要なのだ。


 (どうしてだ?)


 ローは納得出来なかった。セアカが首切りである事は明白だった。どうしてそれを見逃そうとするのだろうか?霧街を挙げて調査すれば、簡単に見つかるはずだ。何故、それをしないのだろうか。勿論、世界を覆う大きな問題もある。でもだからと言って首切りを放置してよい訳ではない。なのに何故……。


 我慢出来なかったローは、クウのお見舞いに来ているのを承知で、セアカの話をした。セアカが首切りであると。ハクは驚いたが幼生エイラの時の記憶が、ローの話を裏打ちした。六角金剛達が動かないのなら、あたし達で探さない?ローの話に乗るハクに同調するようにクウは言った。


 「もう一ヶ月程前になるけど、首切りに襲われたんだよね。その時にセアカが現れて……。」


 クウは、セアカの台詞を再生する。明確な記憶が残っていた。


 (お前のお陰だよ。クウ。感謝している。俺を解き放ってくれて。俺をあの下らない狩猟隊から救い出してくれて。俺は今、幸せだ。夜の街に埋もれて彷徨い首切り……冷たい鋏の方が良いか?……と戯れる時。俺は自由だ。お前のアニキがファンブルして、消えてしまって俺はある意味呪われてしまったんだ。でもそれももう、昔の事だ。助けられたよ、クウ。)

 

 ハクはローとクウの話を信じて、直ぐにでも捕まえに行こうと息巻いたがローの静かな声が、全てを制した。


 「何だ……クウ。いや、一ヶ月前?そんな前にセアカを見ていたのか?それを今になって?おい。この一月で何人のモルフが死んだと思っているんだ?クウ……おい!クウ!!答えろよ!」


 ローは怒鳴った。ハクもクウもびっくりした。ローは信じられないような恐ろしい表情をしていた。ローは自分でも何かに取り憑かれたようだと思った。でも、自分を制御出来なかった。クリアに切り取られた傷口が彼の世界を覆っていた。唐突に思い出す。


 ……切り口をみて見ろ。完璧じゃないか。俺は気に入っている。……なぁ、お前もそろそろ取り憑かれているんじゃないか?


 (かも知れない。)


 でも、ローはどうしようもなかった。首の無い遺体がローを責めていた。毎晩、亀モルフの大髭が現れる。首を返せと。


 (ああ。そうだ。セアカの言うとおり、俺は取り憑かれて居るんだ。首切りに。)


 ローは他人事のように見ていた。自分がクウに掴みかかりベッドから引きずり出して殴るのを。ハクが止めに入らなければ、どうしていただろうか?俺とセアカは何が違うのか?同じだ。ローは遠くから地響きのように現れた悲鳴に飲み込まれて、絶叫した。沢山、沢山、死んだ。皆、皆、首を失って。それは全て俺のせいだ。俺にセアカの事を話さなかったクウのせいだ。親父が俺の話を聞いてくれないのも、ハクが微笑みかけてくれないのも、全て。


 (……そうだ。クウのせいだ。)


 ハクの強力な電撃でローは気絶した。ローに殴られたクウは血を流し、ピクリともしなかった。ハクは泣いた。


 ナニコノジゴク?



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