第三話 首切り。
「美しいな。」
セアカは思わず零す。目の前の地面には首を切られたモルフ。その切り口は見たことも無いような綺麗な切り口だ。完璧な仕事にセアカはうっとりとなる。完全だ。美しい。
「セアカ!」
ロイは叫ぶ。人化状態のセアカがゆっくりと振り返る。八つの赤い瞳が明け方の薄闇に輝く。霧街の夜明けはいつも通りに深い霧に呑まれている。複雑に折れ曲がった路地裏の最奥の行き詰まりにセアカが燭の火のようにゆらりと立ち尽くしている。霧がセアカの姿を隠しさらけ出し、揺らめかせる。
「おっと。見つかったか。ロイ、久しいな。」
「何をしている!」
セアカはにやにや笑う。笑いながらもセアカが発する殺気はひりひりとロイの魂気を威圧した。欠けた牙を見せながら、セアカは静かに話す。
「そう大きな声をだすなよ。まだ……皆寝てるだろ?非常識だな。それにな、お前には関係無い。俺が何をしようと、な。俺はもう組織から抜けたんだ。さぁ、ロイ君。お仕事だぞ。死体を調べて、家族に返さなくては。ほら、黒丸に報告は?」
その言葉に理性を失ったロイは、ジェットで突進した。一瞬で間合いが詰まり、ロイの鉄拳がセアカの顔面を、捉えなかった。
「そうだよな。死者には礼を以て、接しないとな。」
セアカは犠牲者の体を持ち上げ、自分達の間に掲げていた。ロイは拳をぎりぎりのところで止めた。遺体を更に損壊させて、遺族の悲痛を大きくするような真似は出来ない。セアカは遺体をロイに投げる。同時に跳躍して、傾いた古いアパートの屋根に上がる。蜘蛛の姿で、ロイに問いかける。
「切り口をみて見ろ。完璧じゃないか。俺は気に入っている。……なぁ、お前もそろそろ取り憑かれているんじゃないか?」
セアカは言葉を残して、かさかさと素早く屋根の波を渡って行った。ロイは追跡を諦める。犯人がセアカである事が特定出来た、今はこれで充分だ。この情報を確実に六角金剛に届ける事こそが重要だ。セアカは元暁のチャンピオンで、舞闘を抜けてから更に強くなっているようだ。彼が纏うマイトで分かる。無理に追ってもリスクが増えるだけだ。
「セアカ……どうして。」
モルフがモルフを殺していた。確定した事実にロイは膝を付きそうになる。世界が重い。曲がりくねった路地裏に呟く彼と死体を残して、セアカは去って行った。そのセアカを追うように朝日が昇り霧を追い払った……が、ロイの心は晴れない。




