第三十三話 クウの式神。
「我が荒魂の声に従い、彼方から此方へ!我が央霊に応え、生生世世の契りを!」
クウは賀詞を述べた。日は殆ど暮れてしまっていて、ハク達の時のようにクウの頭上の白渦が見えず、また、渦の中を通ってくる式神も見ることが出来なかった。一瞬突風が吹き荒れて、式神が現れるかと思ったがそれ以上は何も起こらなかった。結局、輪廻転回の儀の時とおんなじなんだな、とクウは想った。
「うーん、残念だけど、仕様が無いよ。ファンブルが式神を従えることは無いんだもん。」
本人以上に式神が現れなかったことを残念がる二人をクウは励ました。二人の肩を叩いてやり、もう遅いからと家に向かわせた。途中でハクが振り返り、クウにお休みを言った。
「クウ!お休み。あたしは信じてないから。クウがファンブルしたって。イドが殻で覆われているモルフはクウの他に居ないわ。クウ。君は他の誰とも違うんだと想うの。それには何か意味があるのよ、きっと!」
クウは笑う。
「ありがとね。でも、僕はどっちでもいいんだ。ファンブルだって成体だって、僕は僕だから。そうでしょ?」
そう言ってクウは家に入った。半分嘘だった。どちらでも良いが、クウはどちらかになりたかった。今は霧街にも裏町にも居場所がない。自分が何処に属しているのか、自分は何なのかわからない事が不安だった。最近は調子が良いけど、いつまた食べては吐いての繰り返しに戻るかも知れない。いつまた、皮膚がひび割れて体液が染み出して来るかも知れない。不安は尽きなかった。でも、とクウ思う。少しずつ降りてくる夜の帳の中で言い聞かせていた。……大丈夫、だってさ、
(……僕は僕だから。)




