第三十一話 ハクの式神。
ハクは幕挙げの賀詞を発する。
「我が直霊の声に従い、彼方から此方へ!」
賀詞を続けるハクを中心に方陣は白く輝き始める。彼女の頭上に白い靄が渦を巻き、小さな台風の目となった。目の奥は深く続いていて何処か知らない世界の端に繋がっていた。その遥か彼方から何かがハクの元に近づいてくる。ハクは大きな声で賀詞を結んだ。
「我が央霊に応え、生生世世の契りを!」
頭上の白渦から突風と閃光が放たれて、ハクの式神が降りてきた。
ぽとん。
ハクの頭に降りたそれは、小さな白いオコジョだった。ハクは拍子抜けした。舞闘に秀でた者は……例えば六角金剛達は……それぞれの強力な式神を従えていたので、ハクも強力な式神を想像していたのだ。しかも、真上に落ちて来た。式神は強力であればあるほど、主から離れた所に現れる。逐鹿の式神の光蛇は大方陣の稜線ぎりぎりに現れたと聞く。頭上に現れるなど、一般人のそれだ。がっかりしてしまったハクはしかし、これも一つのエンだと思い……
「あー!!」
クウとロイは指差した。ハクの頭上を。ハクは釣られて視線を上げる。
「うおー!」
ハクも叫ぶがその声はくぐもって聞こえなくなる。オコジョの群れにハクが埋もれたのだ。百匹のオコジョが現れた。埋もれたハクは最初はびっくり顔だったがオコジョのもふもふ感に堪らず笑顔になる。
「なにコイツら?かわいいー!」
掬い上げて抱き締めるハクの胸の間から一匹のオコジョが飛び出した。黒いオコジョだ。ハクの正面に二本脚で立ち上がりお辞儀をした。お?とハクが言うと同時に彼は挨拶した。
「初めまして!我々を呼んで下さってありがとう!貴女様に仕えさせて頂く事となりましたオコジョです。私の名前はトトと申します。以後、よろしくお願い申します。さあ、皆、ご主人さまに挨拶を!」
黒いオコジョのトトがそう言うとその他、九十九匹の白いオコジョ達は立ち上がりてんでんばらばらにハクにお辞儀をした。お辞儀をしたものから順番に四方に走り去り、居なくなってしまった。トトが快活に言う。
「皆でいるととても邪魔になりますので、御用の無い時は各自自由行動と致します。私は貴女さまのお側におりますので、ご安心を!」
そう言うとことわりも無しにトトはハクの肩掛け鞄に潜り込んでしまった。この可愛い生き物が何の役に立つのか思いつきもしなかったが、ハクは可愛いのでよしとする事にした。
ま、そもそもあたしはとても強いしね。




