第二十五話 ウカミ 1
きらきらの笑顔でクウは久しぶりの舞闘を迎える。あさつゆはクウが心配でそわそわしている。裏街での舞闘は霧街での舞闘とは違い、簡素な舞闘台で行われる。勿論、闘上石は無く、死や怪我が無かった事にはならない。ここでの怪我や死は修復されることはない。この為、裏町の舞闘には審判がいて、技が決まったかを判断する。また、意味不明な術……自失等、審判が効果を判断出来ない術……も使用される事は無い。
「防具付けるんだね。こっちじゃ。」
クウは慣れない防具に落ち着かない様子だ。ヤハクは審判としてこの舞闘を仕切る事にした。ヤハクは直径五十メートルの土俵のような形をした舞闘台の中央に立っていた。クウの対戦相手もそこにいた。ポーと言う青年だ。クウと体格が同じであるため対戦相手として選ばれた。黒尽くしの和装を纏っている。動き易いように袖裾が絞り込まれている。手には木薙刀と呼ばれる、木の棒を持っている。棒の両端には緩衝剤が巻き付けられていて、重大な事故が起こらないように配慮されている。
「では、ルールを説明する。」
ヤハクは重々しく宣う。ルールも当然、無用な怪我を防ぐ為のものだ。ポーにはすっかりお馴染みのルールであるため、ヤハクの話を聞き流してストレッチをしている。クウは真面目だ。
「一舞、五分とし五舞行う。木薙刀を相手に入れたら一本とする。五舞終了時点で取った本数の多い者を勝者とする。以上だ。質問は?」
クウもポーもにっこりと微笑み、元気良く頷いた。噂を聞いてぽつぽつと集まって来たファンブル達は興味深そうだ。何と言っても最後の子の舞闘なのだから。あさつゆはそわそわが止まらなくて、早くも涙目だ。ヤハクは満足気に宣誓する。
「始め!」
クウは様子見の突きを出した。ポーは最初から全力だ。クウの付きを払うとともに返しの突きを打ち込む。ポーが倒れ込んだ。クウが更に打ち込みを交わして木薙刀でポーの足を払ったのだ。
「一本!」
ヤハクは判定する。ポーは悔しそうにクウを睨んだ。疎らな観客は短い感嘆の声を漏らした。ポーがクウの相手をすることになったのは偶然では無い。彼は裏街舞闘の熟練者で、だからこそ、ヤハクはクウの対戦相手に選んだのだ。そう、裏町では、彼に勝てる者は数少ないのだ。そのポーにクウは先制したのだ。注目が集まり始める。最初の一舞でクウは十本取った。ポーは一本も取れなかった。前代未聞だ。一分間の休憩の間に観客は何倍にもなった。舞闘台をぐるりと取り囲んでしまった。舞闘台の端で木製の椅子に座って休憩する。クウとポーは舞闘好きな観客に褒められ野次られして、禄に休息出来ないまま、一分間が過ぎた。
「舞闘者、前へ!」
ヤハクの合図で二人は対峙して、舞闘を開始する。二舞目でクウは五本取った。ポーは零だ。これまで舞闘と言えば長くても三分程度であったクウは流石に疲れ始めていた。正直、後、三舞も闘い切れるのか自信が無かった。でも、それはポーも同じだ。顔には出ていないが、彼も疲弊しているはずだ。観客は更に増えており、賭けが始まった。三舞目を告げるヤハクの宣誓を合図に舞闘台中央に向かう、クウの耳に胴元の掛率発表が聞こえた。
「ポーは1.1倍!クウは5倍だ!誰かもっと最後の子にかけないか?勝てば大儲けだぞ!」
信じられなかった。十五対零で自分が優勢なのに掛率では負けている。皆、クウが負けると考えているのだ。少しもやっとしながらもクウは目の前の舞闘に集中する。クウは威嚇の突きを出す。ポーはそれを払って来るはずで、払う木薙刀の陰から回し込んだ自分の打ち込みを行う作戦だった……が、
からん!
クウの木薙刀が払い落とされた。焦るクウは木薙刀を拾おうとして……
「一本!」
腕に鋭い打ち込みを貰う。堪えて、そのまま武器を取ろうとするが、ポーの二本目が続けて入る。クウはぎりぎりで躱し、一旦引くと見せかけて前に出て、木薙刀を拾う事に成功したが、その際に二本目を取られた。




