第十八話 変異点 2
ロネスはにたりと笑う。
(輪廻転回しようがしまいが、弄んで殺すだけだ。)
しかし、絶望の淵に居るシキには選択肢は無かった。セアカを見捨てることが出来ない以上、戦うしかない。やるしか無いのだ。つまり――。
「我は告げる者なり!無魂に代わり、神賀詞を告げる者なり!」
シキは輪廻転回を始めた。シキのイドは爆発するかの様な緑光を放ち、周囲にその魂気を放出した。一瞬、ロネスは本当に彼がここで転回して自身より強大な舞闘力を有する成体になる可能性を想像して、恐怖したがそれを飲み込んだ。
(緑の光は転回しない。その光を発した多くは失敗作している。間違いない。)
ロネスはそうやって自身を説得しながらも、一方でもう一つの事実を噛みしめていた。過去に日輪様がまだ健在だった頃、日輪様は緑の光を使いこなしていた事実がある。この零鍵世界では緑の光を放つ幼生に対して両極の評価が下されていた。即ち、全か無か。ひやり、とロネスは汗を流す。今ここでこいつに襲いかかり、殺してしまうべきか――しかし、転回は爆発を伴うことも少なくない。それは魂の爆発であり、どれだけ舞闘力に差があったとしても、迂闊に挑むべきでは無い。そのモルフの全人生が一瞬で燃焼された場合、周囲を巻き込む大爆発になる。
「まぁ、どうせ失敗だろ。なぁ!そうだよなぁ!!」
小さい小さいロネスはセアカを踏みしめながら叫んだ。その声は魂気の高まりに翻弄されるシキの耳にも届く。シキは笑う。
……見てろよ。待ってろよ。直ぐだ。俺は、俺は――転回して――。
シキは何も特徴のない幼生だった。毛や色や角。何もなかった。今、ロネスの下で死にかけているセアカは生まれつき背が赤かったし、ここには居ないがクウは小さな角がある。だが、シキには何もなかった。只の幼生だった。だからこそ彼は、成体に憧れていた。何でもない自分が何かになれると信じていた。早く、成体になりたかった。
「おっ。お、おおおおおおおぉぉおおおおおおっ!!」
シキは身体の奥底から湧き上がり、突き抜けて飛び去ろうとする何かを感じて雄叫びを上げた。本能の囁くままに。
(……もうじきだ。もうじき俺は転回して――そうだ。この死にかけた世界を救うんだ。そうだ。俺たちが世界を救うんだ――。)
一切の希望が存在しない荒れ地の真ん中でシキの身体は浮かび上がり緑光を放つ。周囲の雑草枯木はシキの魂気に煽られて揺らぐ。セアカはただただ恐怖と苦痛に叫び、シキは生まれ変わる活力に突き上げられて震える。ロネスは一人、ほくそ笑む。
(駄目だこりゃ。こいつ破裂して死ぬぞ。魂気が大きすぎるし、全くコントロール出来ていない。ふへ……ふひゃ、ひゃひゃひゃひゃひゃぁっ!」
いつの間にか発作のように笑い出したロネスの眼前で、シキの魂気は高まり――そして、爆発した。




