第三話 大団円 3
クウは大切な幼なじみが引き裂かれていくのをただ見つめるしか無かった。世界最悪の消しゴムを封印していた大障壁は爆散してしまった。先ほどのラスの爆発が原因なのか、ロイの白死が原因なのか、そもそも大障壁の寿命だったのかは判らなかった。だが、それはちょうど、ハクとロイが飛び降りた時、三人の幸せが頂点を迎えた時に爆発して、何もかもを連れ去ってしまったのだ。灰色に渦を巻く朧は封印から解き放たれ、火山の噴火のように吹き上がり、上空数千メートルに到達した。それは粉塵などでは無く意思を持った災厄で恐るべき速度で世界に拡散した。朧は吹き荒びながら、接触する全て者を細切れにすり潰して消し去っていった。クウはついさっきまで熱く滾っていた達成感や世界への愛が一瞬で冷たく、意味の無い物に変じたのを感じた。クウは動けず、何も言えず、ただ目を見開いてその場に立ち尽くした。朧が世界に拡散して何もかもを消し去っていくのを感じていた。クウは直接見た訳では無いが、朧が命と言う命を飲み込んでいくのを感じた。帝都周辺で戦った敵対種や虹目の劫末も消えていくのを感じた。海や空や山も。世界が一瞬にして無に変じていくのをクウは感じていた。灰の山脈の神であるはずの山祇さえも消滅した。ふと、クウは思い出した。
――覚えておくと良い。
確かにあの時、山祇はクウにそう告げた。生死を決するのは最後の一瞬だと、その瞬間が訪れた時、それと理解できると山祇はクウに伝えたのだ。
――覚えておくと良い。厳しい自然の中で生死を決するのはいつも最後の一瞬じゃ。その時が来ればそれと判る。その最後の一瞬を逃さずに挑むのじゃ。臆するな。もし、その時まで持ちこたえられたのであれば、最後に全てを決するのは貴様が持つ命題だけじゃ。今は判らなくても良い。とにかく最後まで貴様は貴様の命題を決して忘れては成らぬ。そして、挑むのじゃ――。
クウは山祇が言っていた最後の瞬間が今であることを理解していた。彼女の言うとおり、その時が来たので全てを理解できたのだ。今こそが、彼女が予言した命題に対峙する、その時なのだ。
(山祇さま、僕は持ちこたえたよ。最後の一瞬まで生き延びたんだ。もう、何も怖くない。死さえも受け入れられるよ。だって、もう、全てを失なったったんだもん。でも、でも――僕の命題って?何に挑めば良いの?僕も世界も、もう死んじゃうのに。)
クウはふと思い出す。これまでの人生の中で、その節々で自分が言ってきたことを、感じていたことを、ふと、思い出した。それは芋づる式に?ドミノ倒し的に?――走馬灯のように――クウの記憶を呼び覚ましていった。
「僕が世界を元通りにして、また、生徒でいっぱいにしてあげるから!」
「僕は僕がここにいる意味を見つける。必ず。僕は最後の子で、産まれてきた役目があるんだ。それはきっと世界の秘密に繋がっていて、世界は死なずに済むんだ。」
「そだよ。僕たちは行くんだ。これは僕たちの人生――じゃなくて、僕たちの物語だから。」
「僕たちは行く。救うんだ。この世界!」
「僕は行く。正義や宿命は関係ないよ。僕が選んだ僕の理由のために。だってさ、それが多様性なんだもん。」
――ぱたり。
軽い音を立てて、クウの中で最後の一ピースが落ちてきてはまり、全ての答えを描き出した。




