第四十一話 世界の終わり 29
オーロウを抜けたクウは、大障壁の上に立っていた。ラスとクウは互いに背を向けている。クウは必死に伸ばした右手を見つめた。握られた掌を開く。そこにはラスのイドが――ない。クウは自分の胸を見る。イドが存在した場所は深く抉られて血が溢れ出していた。クウは膝をつく。クウのイドは失われては居なかったが深く傷つき、今にもその役割を終えようとしていた。
「駄目――かぁ。」
クウがそのまま目を閉じて倒れこもうとした時、ラスの悲鳴が響いた。それは、世界を割るような跫音だった。クウは振り返る。ラスは不定形の身体を震わせ伸縮膨張を繰り返して血を吹き出していた。クウとラスの中間地点には黒い鍵が落ちていた。ラスのイドだ。クウは奪うことが出来なかったが、イドをラスの体内から抜き出すことに成功したのだ。
おおおおおおおお。あああああああああああああああああーーーーーーー!!!!
ラスは叫びながら黒い身体をのたうち回らせ、緑の光を零しながら、鮮血を吹き出していた。震えながら振り返り、鍵に向けて手を伸ばす。身体を引き摺り鍵を取り戻そうと大障壁の上を這い回った。クウもそれを阻止しようと鍵に向かい歩く。一歩一歩に気絶しそうな痛みがあり、血を吐く。クウも倒れ、身体を引き摺る。彼等はそのまま立ち上がることも出来ず身体を引き摺って鍵に向かう。それは、絶望的に醜く苦痛に満ちた光景だったが、彼等は止めなかった。顔を上げることさえ出来ないのに、鍵に向かい進む。クウの顔が大障壁の荒い表面で削られて血と肉が剥がれていく。どちらが先に辿り着くのか全く先が見えない状態で時間だけが過ぎていった。そしてついに、一方の手が鍵にかかった。
それは、クウの手だった。




