第三十八話 世界の終わり 26
「判ったよ。ラス。ニチリンさまのイドは渡すよ。だから、世界をよろしく。」
クウはそう言うとオーバーオールとTシャツをめくり、自身の胸の中心にあるイドをさらけ出した。そこにはイドが縦に二つ並んで輝いていた。
「では、約束する。ニチリンのイドと引き換えに世界は正常に戻す。」
クウが頷くとラスはその鴉髑髏の口中から緑色に輝くゾル状の触手を伸ばし始めた。それは真っ直ぐクウの胸のイドに向けて進む。渦翁は精一杯の声で叫ぶ。
「クウ!世界は渦を巻いた!ラスは約束を果たさない!」
クウは以前聞いた遡の話を思い出した。
(……渦を巻いたと言うことは、僕のこの賭けは失敗するんだ。じゃぁ――。)
すとん、とクウの中で全てが腹落ちした。納得して飲み込めた。迷いは欲望と可能性が連れてくるのだ。世界を救いたい。それも最小限の代償でより確実に。クウはそう考えていた。だが、無理なのだ。渦翁の叫びを聞いてクウは理解した。他に道は無い。全てをなげうって、それでも世界を救えるかどうか判らない。そう言う状況なのだ。これは望みの薄い舞闘なのだ。だが、そう、だとしても――。
「やるしかないんだ。」
クウは、持てる全ての魂気を練り上げて、隈取りを発現させた。この舞闘に勝利しても、魂気が枯渇して、命を落とすかも知れない。しかし、だからといって加減する余裕などない。全力でやりきるしか道は無いのだ。クウは赤と黒の渦を巻く二重の隈取りを発現させた。腹の据わった視線でラスを睨む。




