第三十七話 世界の終わり 25
「私も神業を使える。これを知っているのは六角金剛だけだが、イソールとパーロッサには話してある。」
水紋の国の立て直しを進めていたある日、渦翁はそれをクウに伝えた。
「この先、何が起こるか判らないからお前にも知らせておく。敵に知られると困るが、味方がこの神業を私が使えることを知っていてもらわないと意味が無いからだ。」
「えっと、意味分かんないや。」
あはは、とクウは笑った。渦翁は順を追って話し始めた。
「私が使う神業は遡だ。時間を遡ることが出来る練術だ。遡れる時間は一日一秒だけ。但し、それを繰り越していくことが出来る。つまり、一年間全く遡を発動しなければ三百六十五秒戻る事が出来るようになるのだ。私の角を見てくれ。渦が緩いだろう?遡で止められる時間を顕しているんだ。この一連の戦争が始まる前は一時間ほど遡ることが出来た。だが、十年貯め続けた時間も娘を救うために大部分を使ってしまった。――とにかく、一つ覚えておいて欲しい。私が遡を発動させたら、”渦を巻いた”と表現する。もし、そう聞かされたら、何か重大な事象が起きて時間を巻きもどしたのだ理解してくれ。私以外は巻きもどした時間の記憶を失うから誰も時間の巻き戻しについて気づけないのだ。舞闘中にこの件について説明をしている時間は無いだろうから、先に伝えておく。覚えておいて欲しい。例えば、ラスとの舞闘中にクウ――君が死んで私が遡を発動させたとしよう。その場合、私はこう伝えることになる。”渦を巻いた。ラスの剣に気を付けてくれ”とか”渦を巻いた。敵わない、逃げろ”とか。舞闘中敵がいる状況下では遡について説明することが出来ないから、このような伝え方になる。覚えておいて欲しい。これはいつかその時に絶対に必要となる情報なのだ。」
――そして、世界が終わるその最後の舞闘で渦翁は最後の遡を発動させた。




