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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第十二章 世界の終わり。
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第三十六話 世界の終わり 24



 「では、約束する。ニチリンのイドと引き換えに世界は正常に戻す。」


 クウが頷くとラスはその鴉髑髏の口中から緑色に輝くゾル状の触手を伸ばし始めた。それは真っ直ぐクウの胸のイドに向けて進む。渦翁はその間もクウ、やめろ、戦えと叫び続けていたが、クウの意思は変わらなかった。クウはこの方法が一番、世界が救われる可能性が高いと判断していたからだ。ラスの触手はクウの胸に到達する。それはべったりと生暖かく、血の匂いがした。渦翁の叫びを無視して大障壁の上の物語は進む。


 「ではイドをいただく。」


 「どうぞ。」


 ラスは凄絶な笑みを浮かべた。それは到底、味方に送る笑顔では無く、クウは裏切られたのかもと不安に襲われる。次瞬、クウの胸を激痛が覆った。ラスの触手はニチリンのイドを掘り起こして、クウの身体から引き摺り出していた。クウのイドも同様だった。二つのイドはクウの身体から引き抜かれて、クウは激痛に叫んだ。渦翁もその叫びを聞き、クウの名前を呼んだ。でもそれは届かず、クウは激痛に絶叫しながら絶命した。ラスは爆笑だ。


 あははははは。あはははは。あはははは。


 軽い笑いが徐々に闇が重くなる世界に響いていた。二つのイドを取り込んだラスは瞬時に肉体を取り戻した。ゆらりと立ち上がった。


 「さぁて。零鍵世界を抹消するとしようかねぇ。ああ。そうだ、その前に。」


 言いながらラスはロイの頭部もハクも朧に蹴り落とした。ラスはその背中から大きな闇色の翼を広げて、巨大な八咫烏に変じて世界に飛び立った。霧街に向けて移動を開始しようとしたラスは大事なことを思い出す。


 「おっと、忘れてたねぇ。出してやるよ。長い間、辛かったろ?」


 ラスが指を鳴らすと最後の舞闘が繰り広げられていた大障壁は消失した。朧は脳髄がかゆくなるような不快な音を発して世界に拡散した。



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