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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第十二章 世界の終わり。
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第三十五話 世界の終わり 23



 クウは真新しい気持ちで命題に向き合った。


 「誰も見捨てないし、諦めない。」


 不屈のモルフの本領発揮だ。クウはラスの闇雲の剣をギリギリまで引きつけて我業で躱す。


 オーロウ!!


 一瞬、全てが分解されて無くなり、クウは世界と融合する。ロイとハクも一緒だ。彼女たちも一緒にオーロウで包み、全ての攻撃を全員が回避しているのだ。オーロウであれば胸に突き刺さった剣も問題なく外すことが出来る。クウは諦めて居なかった。最後まで戦い抜くと決意していた。決意がクウ達をオーロウの中で押し進めた。クウのイドが赤く燃えていた。ふと、気付く。赤く燃える塊が二つあった。イドがもう一つあるのだ。クウは直感した。


 (無くしたと思ってた火球……飲み込んじゃってたんだ。)


 そして、その火球の中には炎を象った鍵が収められていた。クウは直感する。


 (これ、……ニチリンさまの完全鍵マスターキーだ。)


 それは世界を開放させる鍵であり、彼女のイドだった。クウはオーロウの中でそれを理解した。日輪のイドをクウは飲み込んで死にかけていた所に、吹きかけられた山祇やまつみの息吹で融合してしまったのだ。今やそれは彼のもう一つのイドとなっていた。それは力強く輝いて、とっくに舞闘限界を過ぎてしまっているはずのクウを支えていた。クウはオーロウの中、ラスに向かい進む。前回は失敗したが、今回はやり遂げる。ラスと交差する一瞬に全てをかけてラスのイドを抜き取るのだ。それが唯一の勝機だ。


 (……見ているのか?俺も見ているぞ。)


 世界と渾然一体になるオーロウの中でラスがクウに話し掛けてくる。


 (探していたのはそれだ。クウ。良く見つけてくれた。それがあれば鍵の守護者は世界を操れる。それはモルフには扱えん。どうだ?俺に渡せば、全て無かったことにできるぞ。俺ならお前の代わりに世界を元に戻せるぞ?どうだ?なぁ。)


 クウの心の中に葛藤が生まれる。それは一瞬で大樹に育ちその枝葉の庇護にクウはすっぽりと包まれてしまう。ラスとクウが交差するその一瞬、クウは攻撃を行えなかった。そのまま、オーロウを抜けた。クウはラスの攻撃を躱しラスの背後に廻っていた。不定形のラスはもたもたと鴉髑髏の頭部の向きを変えるが、クウはその間も攻撃はしなかった。ロイを大障壁に下ろし、抱きかかえていたハクをゆっくりと横たえた。ハクの胸に突き刺さっていた剣はオーロウで外れていた。その致命傷である傷口はうっすらと塞がっていた。ふと、クウは裏街での舞闘でオーロウを行使する度に体調が良くなっていたことを思い出した。オーロウで一度、極限まで細かくなって、それが再び再構成される時に――ひょっとしたら――異常が取り除かれるのかも知れない。正常に組み直されるのかもしれないと想った。いずれにしても二人ともはっきりとした意識のある状態ではなく、この舞闘を一人で戦いきる必要があることには変わりは無かった。漸く向きを変えることに成功したラスはクウに告げる。


 「完全鍵マスターキーを渡せ。そうすれば、この世界を元通りにできるんだ。これは神々の眷属(アドミニオン)のみが行使できるイドだ。貴様が持っていても無駄だし――誰も救えないねぇ。」


 クウは、学校で習ったことを思い出していた。


 (――ニチリンさまは開闢に鍵を奪われた。そのせいでニチリンさまは、世界を治めることが出来ずに零鍵世界は大混乱に陥って、ファゴサイトやセルが暴れ回るようにになったんだ。だとすれば、ラスに鍵を渡して……。)


 クウには判らなかった。今下そうとしている判断は、世界を救うためなのか、自分を救うためなのか。ラスを倒しても烏頭鬼やファゴサイトが居なくなる確証は無い。だが、ラスに鍵を渡せば――ラスがその気にさえなれば――この世界の異質は取り除かれる。かつての世界をニチリンがそう維持してきたように。クウは葛藤する。


 (ラスに賭けてみても――。)


 「駄目だ!奴は我々モルフとは違う。現神王コンの言葉を忘れたのか!」


 渦翁が世界の裏側から叫んだ。クウは直接聞いた訳では無いがミントから聞かされていて実体験として想い出せるほどだった。助けを求めるミントに現神王コンは伝えたのだ。


 ――我々《アドミニオン》は我々《アドミニオン》だけを愛している。お前達は暇つぶしに作った擬人種モルフだ。その喜びも苦痛も生も死も興味は無い。


 だとすればそれに繋がる鍵の守護者……ラスは、当然、モルフを助けないだろう。でも……。


 (僕は、本当にラスを倒せるのか?世界は本当にラスが死ねば生き延びるのか?)


 その疑問にクウは自信を持って答えることが出来なかった。ラスがモルフを護ってくれるのか?についても同じく明快な回答はなかったが、少なくともラスがその気になれば世界は救われるのだ。であれば、この賭けに――。


 「駄目だ!クウ!ラスを信じるな!」


 渦翁は叫び、クウはその声が発せられているロイの頭部を見つめた。大障壁の上で今、実行力を持っているのは、クウとラスだけだった。クウは覚悟を決めた。


 「判ったよ。ラス。ニチリンさまのイドは渡すよ。だから、世界をよろしく。」


 クウはそう言うとオーバーオールとTシャツをめくり、自身の胸の中心にあるイドをさらけ出した。そこにはイドが縦に二つ並んで輝いていた。



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