第三十四話 世界の終わり 22
「クウ!ロイ!ハク!聞こえますか!」
それはジュカの生き残り、ミント姫の声だった。ロイの頭部がミントの神意顕現を受信している。巨大な大障壁の上で遮る物が何もないためか、彼女の声はとてもクリアだった。クウは一瞬、この絶望を救ってくれる助けだと考えた。これまでもミントの声に……それは単なる声なのに……命を救われてきたからだ。だが、続く声は、クウの状況を更に悪化させた。
「空白が襲われました。闇穴から塵輪や――ああ。ファゴサイトが――。」
泣き崩れるミントの声の向こうから逐鹿の声が響いてくる。
「クウ!こちらは時間の問題だ。恐らく後、数分も持たない!クウ!聞いてくれ!こちらは打つ手無しだ。唯一、皆を助けられる可能性があるのは――。」
渦翁のその言葉の先をクウは正直、聞きたくないと想った。渦翁もクウの苦しみを察して、それ以上は言いたく無かった。だが、渦翁は続ける。それが役目だからだ。
「皆を助けられる可能性があるとすれば、ラスを倒すことだけだ!ラスが持ち込んだ異常であれば、ラスの力が消えれば、存在できなくなる可能性がある。可能性はそれだけだ。」
(ああ。)
クウは、ただそう想った。ああ、と。まだ水紋には数十万人のモルフが生活している。皆の人生が、命が、世界の裏側のこの舞闘に託されているのだ。三人だったらどれだけ心強かっただろうか。でもハクもロイも死にかけていて舞闘など出来る状態ではない。特にハクはもう数秒しか持たないだろう。クウは一人だった。一人で戦い抜くしかなかった。心が折れそうだった。急に水紋が霧街が懐かしく、シキに会いたくなった。
一瞬で何もかもがフラッシュバックして黒丸の死もシキの死も大喝破の死もあっという間に巻き戻って、輪廻転回の儀も飛び越して幼生の時間に戻った。三人仲良く肩を組んで歩いていた。それを今の自分が後ろから見ていた。何を話しているか聞こえないが、彼等の横顔はとびっきりの笑顔だったので、きっと楽しい話をしているのだとクウは想った。幼生のクウは振り返る。傷だらけの成体のクウと目があった。
「重そうじゃん。捨てちゃうの?」
幼生のクウは言った。成体のクウは言われて自分身体を見下ろした。左手にはロイの頭部、右手には血まみれのハクを抱えていた。
「でもさ、重くたって、大事なんでしょ?捨てちゃだめだよ。」
一瞬、時が止まり、クウの感情は完全にフラットになった。成体の視線と幼生の視線が混ざり融合してお互いを自分として見つめていた。そこに論理的な言葉は無く、何かの感情だけが存在していた。
……ああ。あの時、山亀を倒した後の僕たちだ。おにぎりの話をして……。
クウは気付いた。そして、何と言い表すこともできなかったその感情にクウは気付いた。その瞬間に時間が爆発して、再び進み始める。荒れ地でのアマトとの邂逅やリツザンへの旅、帝都への旅、そして、最後の舞闘――。
「以前話したな!あと一回使える。ミントには神意顕現を維持して貰う。こちらの判断で最後の一回を使う!クウ!すまない。重くても受け取ってくれ!」
不定形のラスはげらげら笑う。
「いやいやいや。無責任な大人は嫌だねぇ。全部任せるってよ。さ、続けようぜ。ここには俺とお前しかいないんだから……ねぇっ!」
ラスの鳥髑髏の双眸から無数の闇雲の剣が突き出された。




