第二十八話 世界の終わり 17、第二十九話 世界の終わり 18
第二十八話 世界の終わり 17
一緒に居たいけど、無理ならそれでいい。様々な物語の中にあるような親友の死を糧に成長して迎えるゴールなど、願い下げだった。折に触れて、彼らは祈る。
君だけは生きていて。
第二十九話 世界の終わり 18
ラスは既にヒト型を維持できずに理解不能な塊になっていた。その緑色のヘドロ状の身体の中から鴉髑髏の頭部が半分だけ見えており、そこから刃が伸びていた。それはハクの背中に突き刺さり、胸の間から突き出していた。白くしなやかな彼女の身体は見る見る鮮血に染まっていく。
「惜しかったねぇほんと。でも、もう逃げられないよ。ちょっとでも動いたら刃がハクの心臓を切り裂くよ。といってもそのままじゃ、結局死ぬけどねぇ。さぁ、次はどうすんの?何か手はあるのかねぇ。」
クウは焦る。これは今、一瞬の判断が必要なことだった。
(何とかして剣を抜き取らなくちゃいけないけど、この長い剣を抜き出すのは無理だ。後はラスを倒すしか方法はない。でも、今、ハクから手を離したら、刃がハクを傷つけちゃう。そもそも、ラスを倒せたとしてもハクは助けられない。どうする?)
クウは目眩と吐き気に襲われながらも一つの回答近づいていく。
(今、一瞬でラスを倒したとしてもハクは助けれない。それなら……。)
「早く見捨てろよ。」
ラスががしゃがしゃと叫んだ。
「ハクはどうせ死ぬ。その出血じゃ助からない。さぁ、さぁ、さっさと見捨てて舞闘を再開しようぜ?世界を救うんだろ?クウ?ああ?どうした?諦めるのか?」
そこまで畳みかけたところでラスは我慢が出来なくなって、馬鹿笑いを始めた。楽しくて仕方が無かった。
(この零鍵世界に来てから思い通りにならないことばかりで苛立ったが、結局、計画通りだ。予定の枠に収まる。そうだ。モルフのような紛い物に本当の命である自分が負ける訳はないのだ。自分が勝って、正当性を示して、全ては元通りだ。命の境界線は護られるのだ。)
馬鹿笑いをするラスを見て、それでもクウは覚悟を決められなかった。何かあるはずだと、本能が囁いているのだ。直感はハクの死を否定しているのだ。でも、理性は彼女の死を受け入れている。
(ああ。何か。何か、何か何か……。)
クウは焦り、必死で考える。彼に抱えられたロイの頭部が突然、声を発した。
「クウ!ロイ!ハク!聞こえますか!」
それはジュカの生き残り、ミント姫の声だった。




