第二十七話 世界の終わり 16
ラスの怒りの呪いに満ちた死の刃がロイに向けて突き出されたが、ロイは回避する事が出来なかった。舞闘限界を向かえた上に、完全に魂気を使い切り、一ミリも身体が動かせなかった。闘いに勝利を収めた満足そうなラスの表情は気に入らなかったが、全力を出し切ったのだ。悔いはあるし、やり直しをしたかったが、それは叶わない。後は死ぬだけなのだ。最後の瞬間はとてもクリアでゆっくりと過ぎていく。ロイは想う。
……父は、一文字は俺のこの失敗を赦してくれるだろうか?
失敗ばかりの人生で、最後の大ばくちもこれで負けるのだ。自分らしいかなと想えたことが救いでもあり情けなくもあった。いずれにしても、もう、何も出来ないのだ。もう、これで終幕なのだ。後は残ったものが物語を続けていくのだ。ロイの感情は平坦だった。視界は鮮明でクリアだった。日が沈み始めて茜と紺碧は境目も無しに共存している。とても静かだな、とロイは想った。途端に。
……ぅぅうああああああああっ!」
絶叫が上がり、身体が浮き上がった。クウが持ち上げているのだ。クウの行動はすんでの所で、ロイの眉間に闇雲の剣が突き刺さることを防いだ。だが、刃はロイの胸に腕に腹に脚に刺さり、彼の身体を貫き切り裂いた。ロイを持ち上げるクウの身体も刃に襲われる。それでもクウはロイを投げ飛ばして、ラスと間合いを取った。クウとロイはそのまま大障壁の上を転がった。
「ああああああああっ!」
涙混じりの絶叫がラスの頭上に降りかかり、同時に不明の刃が全方向からラスを切り刻む。純白の身体に真紅の隈取りを発現させ凶相を纏うハクが真技を乱発する。
無刃窮奇!!
ラスはそのハク渾身の無刃窮奇を防ぐことに精一杯で悪態の一つもつけなかった。ラスはこれを喰らうわけにはいかなかった。今、まともに無刃窮奇を受けてしまっては全ての魂気を消耗し尽くして、世界からリジェクトされてしまう。ラスは全力で見えない刃から身を守る。ハクは、トト達を失ったことに我を失い一切の制御無しで全ての魂気を技に変換した。彼女は魂気を使い切った瞬間に失神して、大障壁の上に落ちた。ハクは、受け身もなしに大障壁に激突した。何かが潰れる嫌な音がして、彼女は動かなくなった。体中に傷を負ったクウは震えながらも必死に立ち上がった。
「ハク!」
ピクリとも動かないハクを見て、クウは胃の一番底から吐き気が込み上げるのを感じた。振り返りロイを見る。その瞬間、ロイは爆発した。クウの眼が見開かれる。クウの足下にロイの頭部が転がってくる。片眼は完全に潰れていたが残った方の眼はまだ光があった。彼は体中を切り離すことが出来る為、身体を失うことが直ぐに死に繋がる訳ではないのだ。恐らく、彼はおとなしくしていれば直ぐに死ぬことはない。クウは判断する。素早く、ロイを掴み、そのままハクに駆け寄って彼女を担ぎ上げて、大障壁を離脱しようとした。
「一旦、下がるよ!みんな!」
叫ぶクウの動きが止まる。ハクの胸から禍々しい闇雲の剣が突き出していた。意識の無い彼女は、ゆっくりと血を吐いた。




