第二十五話 世界の終わり 14
「でわ!我々の出番ですねっ!」
ハクの衣服の中からトトが顔を出した。トトにしては珍しく緊張していて鼻の頭が汗だくだ。ハクが何か言おうとするより早く彼は、叫んだ。
「さぁ!みんな!我々が遙か彼方から此方へ来たその理由を!我々の意義を見せる時です!」
言いながらトトは全力でハクにしがみついた。彼女のワンピースの中から……何処に潜んでいたのか想像も付かないが……無数のオコジョ達が現れる。最初の一匹がトトの背に噛みつく。二匹目が一匹目の背を噛む。三匹目が――と延々と続いて遂には九十九番目が大障壁に到達し、彼女と大障壁を繋ぐ頼りない命綱を形成した。驚くハクを無視して、オコジョ達は叫ぶ。
「ハク!ありがとう!我らを此方へ呼んでくれて!ありがとう!我らを愛してくれて!ハク!」
トトは一拍を置いた。帝都の朧の直上、一瞬の時間も無駄に出来ないこの状況でしかし、トトは一拍おいた。込み上げるものを飲み込むのに必要だったのだ。
「ハク。さようなら。お元気で。」
ちょ、何言ってんのよ?と言おうとしたハクを無視してトト達は全力を出した。全員が呼吸を合わせてしなり、一つの鞭となりハクを持ち上げる。彼女を大障壁の上まで引き戻すつもりなのだ。オコジョ達は完全に一つの綱となり、ハクを絶望から引き上げる。だが、眼前でトト達を見つめるハクは絶叫した。
「や!止めて!トト!止めて!!いいの!あたしは!」
トト達は止めない。ハクを引き上げるために仲間の背に牙を立て、仲間の爪で身体を突き刺されていた。小さい身体から血飛沫が上がる。力強く、ハクを持ち上げたその動きは一瞬で、直ぐに彼等はほどけ始めた、身体が引きちぎられて、バラバラになって落ちていった。ハクの身代わりとして。朧に。だが、その一瞬の動きがハクの命を救った。上空に放り出されたハクは朧の上空を脱して大障壁の上に位置していた。時間がゆっっくり、と流れる。オコジョ達が次々とねじ切れて落ちていく。朧は灰色の粒子が渦を巻く存在で、触れる者全て削って消し去る。朧へと落ちていったオコジョ達は、砂を噛む歯車のような不快な音を立ててすり潰されたいった。ハクは悲鳴を上げる。彼女の澄んだ瞳はその残酷な一瞬の詳細を全て彼女に見せつける。下半身を失ったトトが最後に笑う。
「命には定義は要らないのです。我々は居なくなります。死ぬ、というヒトも居るでしょう。でも違います。遷ろうだけです。」
その言葉の意味を今のハクは理解できなかった。また、彼がこの瞬間、その真実に到達できた理由は誰にも判らなかった。それは、その瞬間に立ち会った者だけが理解する、真実なのだ。そして、トトもまた、他の仲間達のように、朧に飲み込まれてガラスを引っ掻くような悲鳴と供に絶命した。




