第十九話 世界の終わり 8
ラスは用意していた。ロイの白死に対して。白死は水紋での決戦で多くの影を仕留めた練術であり、ラスはそれに対処すべく、魂気を回復させながら用意してきたのだ。しかし。
(いや、まさか、頭だけになるとはねぇ……。)
ラスは爆炎の中からこちらに向かって飛び出してくる若い三人のモルフを見つめながら少し、感傷に浸る。絶対者の余裕だ。ラスは今、覇宮から蹴り飛ばされて帝都の中心部にある大障壁の上に首だけになりながらも到達していた。首が乗る巨大な円状の壁の内側には世界の骨格以外を消し去る最悪の消しゴムが渦を巻いていた。
――それは、灰色のうねりだった。
鳴き声のような悲鳴のような音を上げながら、朧は大障壁の中で世界を呪っていた。他者を取り込み消去する事だけを存在意義としている自分をこのような障壁の中に閉じ込めたこの零鍵世界を呪っていた。僅かばかりの分身を世界に送り出しては見たものの何が変わるわけでも無かった。一部の生物を消し去ったり、モルフの中に入り込み同化したりもしたが、何も変わらない。自分がここから出る予兆にすらならない。朧は呪っていた。自身から逃れ生きながらえる世界の全てを。
「ラアァァァス!!」
尻尾を失ったクウと霹靂で魂気を消耗したハクをその背に乗せて機甲蟲モルフのロイは突進してくる。クウ以外は隈取りを維持しており、舞闘限界まではもう少し猶予があった。それを理解しながらも、頭だけのラスは笑う。
「ふ。ははははははは!さぁさぁ!これが最後だ!楽しませてくれよなぁぁぁ!!」




