第十八話 世界の終わり 7
ラスはその練術の験を理解していた。それは鋭い光や巨大な音が本質では無かった。ロイが輪廻転回してから徐々に増大していった光と音が齎す、殺傷力も本質では無かった。白死の本質は無効化だった。どの様な練術も、どれだけの魂気も無効化して零にしてしまう練術だった。そこに跫音強光が齎す破壊が襲いかかり、全てを死に至らしめるのだ。それはラスの緑の古代文字も同じだった。ロイのキャンセル技の前では何も意味を持たない。この零鍵世界ではどうでも良いようなモルフ達がデタラメな舞闘力を発揮して、ラスを苛立たせたが、その最たるものがロイの白死だった。その前では、全てが意味を成さない。直撃を受けてはラスでさえも生き残る術は無い。ラスはこの一月余りの間、体力を回復させながら、変異の逸脱を修正しようとしていた。しかし、変異は複雑で夥しく積層しており、このような原初の世界に居ては修正どころか、解明すら出来なかった。それでも、ラスはシステムの全てを理解する存在であり、抜け道は用意されている。このような極限状況であっても。
「感心するよ。ほんとにねぇ。」
小さく呟いて、ラスは自身の首をその手刀で切り落とした。どん、と鈍い音がしてラスの身体の足下に転がる。彼の頭上からはロイの白死が迫る。
「でも、勝つのは俺だねぇ。」
呟く頭部をラスの身体は全力で蹴り飛ばした。直後、跫音強光が尖塔に到達して全てをなぎ払う。ハクは歓声を上げる――つもりが悲鳴に変わった。ラスの身体が消滅する瞬間に大爆発を起こしたのだ。爆発の直撃を避けるためにハクもクウもウーリも(もちろんオコジョ達も)全力で魂気を高めてそのエネルギーを凌いだ。それでもその衝撃は強大で彼等の肉体に損傷を与えた。泥闇との闘いで魂気を使い果たしていたウーリは耐えきれず、霧散した。実体を保つための魂気が枯渇したのだ。熱傷を負いながらもハクとクウは何とかその爆発を耐えきったが、ウーリを失った彼等は空中に投げ出された。クウの耳にラスの笑い声が届いた。
「不味い!ラスに逃げられる!」
「いや、そうはさせない。」
ロイがクウとハクを受け止める。爆炎が収まらない中、ロイは彼のレーダーで姿の見えないラスの居所を感知する。ロイは決意を吐き出した。
「今、止めを刺す。絶対に、だ。俺たちに次は無い。」




