第十六話 世界の終わり 5
まさかまさかまさか。
ラスは、思い起こす。ニチリンの調査結果を信じられずにこの零鍵世界に乗り込んできた時は、ちょっとした冒険のつもりだった。世界のあちこちを見て回り、彼女の調査結果が徐々に裏付けられるのを感じて、その事実に反発していった。
(ああ。そうだねぇ。俺は反発していたんだ。認めたくなかったんだ。何しろそれを認めてしまったら、この十鍵世界での傍若無人の生活が終わる。この零鍵世界を認めてしまったら、ここも完全世界も同じになってしまう。)
ラスは回想していた。この零鍵世界での彼の冒険を。気ままな旅のつもりが、次々と現れる変異に邪魔をされ、勝手気ままに振る舞うモルフに翻弄されて、ニチリンが地上に降りて大神が卓袱台返しをした。
(でも、まぁ、結果、これで予定通りだねぇ。)
ラスは羽ばたいていた。帝都の最大障壁に閉じ込められた朧の直上で、艶やかな黒翼を翳して。その視線の先では翼を持たない、地面を這いずり廻るだけのモルフが何かを叫んでいる……いた。もう、先ほど、前のめりに倒れた。クウは、舞闘限界を過ぎて魂気を使い果たして倒れたのだ。
「っていう、お芝居の可能性もあるよねぇ。」
ラスは腕を大きく振るって、黒羽をクウに向けて放った。その気を察してクウは飛び起きて反撃――間に合わなかった。直撃して大量の血が吹き出し肉片が飛び散った。そのまま転げ回り瓦礫に激突して埋もれた。
「はははははははははは。浅はかだねぇ。作戦が幼稚だっつーの!」
ラスの哄笑が夕暮れ時の赤い世界に響いた。




