第十五話 世界の終わり 4
血の下の顔も血で染まっていた。黒い隈取りの他に燃え上がるような真紅の隈取りがクウの顔を覆っていた。クウの滑らかな白鱗に覆われた身体は渦を巻くような黒と赤の隈取りを纏っていた。
「二色の隈取りだと……。」
ラスは初めて見た二重の隈取りに恐怖した。隈取りはモルフの舞闘力を乗倍させる。それが二つ重なった時、どのような舞闘力を示すのだろうか?ラスは迷わず、最大の魂気を使用して練術を放った。
八咫闇雲!!
無数の剣と黒羽の刃がクウを飲み込んだ。彼が頼りにしていた金剛錫杖は削られて粉砕された。しかし、そこにクウは居ないとっくに回避した後だった。ラスの背後でクウは叫ぶ。
「吹っ飛べー!!!」
振り返るラスの顎先に渾身の掌底を突き放った。クウの練気が爆発してラスは吹き飛ぶ。そのまま覇宮の奥にある巨大な帝都障壁の最上部に激突し跳ね返る――その障壁の内側にはニチリンが封じた朧が渦を巻いており、そこに落ちれば全ての物質は形を失う。魂さえも塵に変えると言われる。最悪の消しゴムだ。ラスは今、クウの練気をまともに喰らい半分意識を失った状態で朧の直上に浮かんでいた。
(行け!落ちろ!)
クウは肩で息をしながら空中に投げ出されているラスを見つめていた。ラスは意識もなくそのまま朧に落ち――なかった。クウには、ばさり、と音が聞こえるようだった。
「いや、参ったねぇ。双隈なんて帝さえ発現できないのにねぇ。まさか守護者の俺が、馬鹿みたいに単純打撃力で吹き飛ばされるとはねぇ。」
愚痴るラスは背中に大きな黒翼を翳してうねる朧の上を浮揚していた。
「いや、感心したよ。"今の"俺より強いんじゃないかねぇ。」
ラスはどこか余裕の素振りを見せる。逆にクウは疲労感に捕らわれる。気力も薄まり、舞闘限界が近いことを感じた。ラスは悠々と朧の上を飛翔している。ふわふわと漂ってあくびをする。
「……そろそろ、なんちゃら限界だよねぇ。クウ。」
鴉髑髏のラスはからからと笑う。クウは胃がキリリと収縮するのを感じた。舞闘限界まで逃げられたら、手の打ちようがない。ラスは愉快で笑いを堪えられず、爆笑を始めた。王の間に取り残されたクウはただ、それを聞いていた。




