第十二話 決戦 5
ロイはハクのすらりとした脚がいつもより大きく力を貯めてしなるのを見逃さなかった。ハクはロイが極技に向けて装甲を開き始めたのを見逃さなかった。ハクは飛び上がり、空中で右の掌を天にかざした。空気の中を何かが走り、大気を支配する。ロイは装甲をパージして内部機関を露出する。ガシンと、跫音強光が炸裂しハクは飛び上がった中空で失神し始める。白死を喰らったのだ。しかし、ハクは笑う。
……計算通り。落ちて来い……あたしの……。
それで決する筈だった。ハクは失神し、ロイは絶命する……が、何も落ちて来なかった。ハクの極術は空振りに終わった。集めた魂力は消滅していた。確かにロイより早く術を行使したのに。ハクはそのまま舞闘場に叩きつけられる。彼女の躰は硬直して、ピクリとも動かせない。目の前には巨大なロイの姿。拳が突き出される。意識を失う寸前にハクは思った。
……痛ったいんだよね。死ぬの。
ロイの鉄拳が破裂する。ハクの愛らしい顔ごと、舞闘場の半分を吹き飛ばした。爆炎と破片が撒き散らされるが観覧席には影響が無い。舞闘場での爆発等は、舞闘場の外に出ない仕組みになっている。
……でも、それってどういうこと?
掲揚塔のモルフは心の中で想いをもやもやさせていた。突然、黒丸が立ち上がり、飛び上がった。舞闘場の破片の一つが観覧席に飛び込んでいく。黒丸は素早く、金剛錫で打ち落とした。
「またか!何故じゃ。」
貴賓席で渦翁も、眉間に皺を寄せる。前にも一度、舞闘の時に舞闘場が機能せず大問題になった……いや、今も問題は片付いていない。とりあえずはこれ以上の問題が無いと判断した渦翁はこの場を黒丸に任せることにして、会場を後にした。
破片の脅威にさらされたのは一部の観客で、この異常に気づいたモルフは少なかった。シャウトも最後の子達の舞闘の決着に大興奮で信じられない!最高だ!を繰り返していた。いつものことだが、きっとまたここから三十分は喋り続け、表彰式が押せ押せになるのだ。それを知っているロイは落ち着いたもので、観客に挨拶を終えたら、ハクの闘上石を見下ろせる位置まで進んだ。いつもであれば一瞬で破損した舞闘場が修復するのだか、今日はまだ、修復が始まらない。少しだけ違和感を覚えながらも、ロイは幼馴染みに話しかける。ハクは身体中の痛みに耐えながら、大丈夫と応えて暗い舞闘場の下からロイを見上げた。そしてロイと空の間にもう一人の幼馴染みを見つけた。
「あ。クウだ。」




