第六話 帝都 1
大正門をくぐると大きな大きな大通りが待っていた。そこは無数のモルフ達が行き来する雑踏で、人が集まる場所にある独特の活気に満ちあふれていた――だろう。つい、先日までは。大正門から続く、現在の一乃大通りは静寂と腐敗に包まれていた。
「これって……。」
ハクは何かを言いかけて何も言えなかった。帝都の一乃大通りは死が支配していた。食い荒らされたモルフの死体で埋め尽くされていたのだ。まだ乾ききっていない無数の死体は彼らが命を終えてからまだ、そう長くは時間が経って居ないことを示唆していた。何か巨大な口と底なしの胃袋を持った恐ろしい存在が大正門から侵入して、一乃大通りに居たモルフを虐殺して食べてしまったのだ。
「多分、ラスの仕業だと思う。」
誰も反論しなかった。それで間違いない。この零鍵世界では虹目がもたらした天変地異が蔓延り、殆どのモルフが死んでしまっている。今、辛うじて残っているのは東方大陸の水紋と中央大陸の覇国だけだった。覇国は世界最大の国でその首都が帝都だった。その城壁は今も健在で巨大な城門はクロガネの棘に覆われており、この先何百年も衰えることはないだろう。その都には一千万を超えるモルフ達が暮らしていて世界中の国々が滅んでいく間にも何一つ被害を被ることなく存続し続けていた。その帝都が今更、通りすがりの敵対種にどうにかなる訳はないのだ。それにモルフ達の死体の腐敗具合は数日ではなく、かといって数ヶ月の経過を感じさせる物でも無かった。丁度、ラスがここに辿り着いた頃に虐殺されたのだろうと推察できた。一行は決意と恐怖を新たにしながらも、悪臭の中を先に進んだ。帝都には後、三つの城壁が存在している。それを越えれば――掌上玉座がある覇宮だ。
「少し、様子を確認しながら進んだ方が良い。その後は予定通り、トト達と合流してウーリに乗って覇宮に乗り込もう。」
ロイは確認するように呟いた。皆、頷いて周囲を警戒しながら先に進む。惨劇は徹底していた。どんなに古い物語にも語られないような酷い有様だった。一時間進んだが状況は変わらない。歩けば覇宮までは数日はかかる。そろそろ、切り上げ時かなとクウ達が考え始めた時、トトが戻ってきた。
「皆さん!来てください。第五十七号が生存者を見つけました。直ぐそこです!」




